#息子からのメッセージ編から続く
”最近の息子の不調は、きっと私のせいだなあと思います。”
お母さんが、保育園の連絡ノートにこう記したのは、10年ほど前、K君が3歳の時でした。
K君はそのころ、自宅では泣いて暴れての繰り返し。しまいには吐いてしまうほどの激しさでした。保育士として働いているお母さんは、ちょうど職場が変わったばかりだったこともあり、自身もストレスを抱えていました。ノートには苦しい胸の内が続きます。
”(仕事のことで)私も落ち着かず失敗の毎日。息子にもイライラしたり、吐くことが続くと、なおさらイライラし、優しくできない毎日です。パパもいつも帰りが遅く、いっぱいいっぱいで…。なんだかこのままだと、息子との関係も悪くなり、イライラばかりで少しつらいです。いろんなことがやっていけるか不安になります。もっと触れ合える余裕があればいいのにと、分かってはいるのですが…”
幼稚園教諭時代の思い出
子どもが好きだったお母さんは、かつて幼稚園教諭として働いていました。K君の妊娠で退職し、1歳半になったときに今度は保育士として働き始めました。
「息子に他の子とはちょっと違う空気を感じた」のは1歳のころでした。乳幼児健診のたび、保健師らに自身の違和感を伝えるものの「個性の範囲内」「この年ならこんなもんだよ」と言われます。
頭をよぎるのは、学生時代に学んだ「発達障害」のことでした。新任教諭として働いていた幼稚園でも「発達障害なのかな」と感じる子どもと接することがありました。園では、みんなが同じことをできて当たり前という雰囲気。一人ふらふらしていたり、はみ出る行動をしたりする子は、しつけができていないと見られ、親が呼び出されることもありました。
「今ほど発達障害が知られていない時代。普通じゃないことが、こんなに怖いことなんだと知りました」とお母さん。自分が妊娠した時も「普通に生まれてほしい」とすごく思ったといいます。
自分のせいかもしれない
泣いて暴れる3歳の息子を前に、お母さんの中で、自分のせいかもしれないという気持ちが膨らみます。保育士として、もっと親が心の余裕をもって接すればいいことも分かっていますが、できない現実があります。そして保育園の連絡ノートは、毎日お母さんの声でびっしりと埋まるようになりました。
お母さんが保育士と交わしていた連絡ノート
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忘れっぽい。怒りっぽい。空気が読めない。K君は、これらの特性から、悔しくて苦しい経験をたくさんしてきました。その度にお母さんはK君と一緒に泣きながら、どうしたら息子が困らずに過ごせるかを考えてきました。そして中学生となったK君は今、「特性は全部、僕の個性。解決策はいくらでもある」と前向きにとらえるようになりました。
今回のシリーズでは、K君が誕生してから中学生になるまでの12年間を、お母さんの視点でたどります。
連載は9月6日から毎月第1・3水曜日、マガジンプラン記事として公開します。