料理人としての経験を生かし、テレビドラマや情報番組の料理コーナーなどで活躍する南砺市出身の俳優、池田航さん(28)。富山県のお米「富富富」のナビゲーターとしてCMやイベントにも登場し、県民に広く知られるようになりました。でもなぜ料理人から俳優へ?コノコト編集室が聞きました。

わがままな子 仲間外れにされたことも
―小学生のころは、どんな子どもでしたか?
わがままで「僕が、僕が―」と言っているようなタイプ。友達が少なく、同級生に「お前とは帰らない」と仲間外れにされ、泣いて帰ったこともありました。小学校の時は1日1日が本当に重かったですね。
中学でバスケットボール部に入ってからは、バスケのことばかり考えていました。部活が終わって帰ってからも、家の前で夜遅くまでシュート練習をしていました。すると周囲から「頑張ってるな」と声を掛けられるようになり、自然と友達ができるようになりました。

―中学校に入って、何が変わったのでしょうか。
部活動で上下関係やチームワークなど人との関わり方を学んだことで、今まで友達ができなかった理由が、何となく分かってきたんです。小学生の頃の自分は、人の話をちゃんと受け止めることができず自己主張ばかりしていたなと。それで「人の話をちゃんと聞こう」と心掛けるようになりました。
受験に失敗 調理科は第2希望
―高校は調理科に進学されました。
実は保育士になりたくて違う学校を受験したのですが、落ちてしまいました。結果、滑り止めとして「料理ができたら楽しいかも」と軽い気持ちで受けていた調理科に進むことになりました。
「俺の人生どうなるんだろう」と不安で、ものすごく落ち込みました。でも家族から「調理科もいいやん。将来の役に立つし」「家で料理作ってくれたら、お母さん楽になるわー」とか言われ、それほど重くとらえていない感じ。自分も「あれ、そんなに落ち込むことじゃない? 料理の道もいいかも」と思うようになりました。
それまで料理といえば、母の日にカレーライスを作るぐらいでした。入学してしばらくは要領が悪く、家族の夕飯を作る課題が出された時には、いつもなら午後5~6時の夕食が8~9時になってしまって。それでも家族は「お店の味みたい」と喜んで食べてくれました。そのうちに料理が面白くなって、高校2年のころには料理人になろうと決めていました。
SNSがきっかけ 料理人から俳優へ
―卒業後は東京のフランス料理店で4年間修業。その1年後にはローカルヒーローが主人公のテレビドラマで主役デビューされました。急展開ですね。
フランス料理店での修業は、早朝から深夜まで働き詰めで、後に入った新人がどんどんやめていく厳しい世界でした。でも東京に行くと決めたのも、この店を選んだのも自分。歯を食いしばって続けるうち、やりがいを感じられるようになりました。
転機になったのは働いて3年目、本場の味を学ぼうと、一人で2週間フランスへ行ったこと。ミシュランの星付きレストラン10店を食べ歩きました。そして帰国後、店に戻ったら世界が変わったんです。すごく厳しかった先輩がいろいろ教えてくれるようになり、シェフも「肉焼いてみるか」「魚もやってみるか」とポジションを上げてくれました。「向上心を持って動くと、評価してもらえるんだ」と実感しました。
その後は、これまで以上に学ぶことに貪欲になり、働いて5年目、もっといろんな世界を見てみたいと店をやめました。まずは居酒屋やイタリア料理店でアルバイトをしながら、SNSで料理の投稿を始めました。するとたくさん反応が来て、「料理の魅力の伝え方は、人に食べてもらうだけじゃないんだな」と思うようになりました。
このころから芸能の仕事にも興味を持つようになり、たまたまSNSに流れてきたローカルヒーローのオーディションを見つけて応募したら、まさかのグランプリ。デビューが決まり、がむしゃらでお芝居の勉強を始めました。

―2019年からTikTokで始めたオムライスを作る動画の投稿は、フォロワーが120万人を超えました。
出演していたドラマの放映が終わり、これからどうやって自分を知ってもらったらいいのか悩んでいた時、自分ができることは料理しかないと思って投稿を始めました。これが予想以上に話題になり、NHKの連続テレビ小説「ちむどんどん」や日本テレビの朝の情報番組「ZIP!」の「旅するエプロン」など大きな仕事につながりました。
今やっていることを全力で
―「富富富」の料理教室などを通して富山の子どもたちと接する機会が増えています。これから進路を考え始める小中学生たちにアドバイスをお願いします。
大人たちは「早く夢を持て」と言うかもしれませんが、焦らなくても大丈夫。夢は無理やり作るものじゃないし、ないのも一つの生き方だと思う。僕もそうだったけど、まずは自分の好きなことを全力でやってほしい。それは部活でも、好きなゲームでも、勉強でも何でもいい。
「自分で決めたことを全力でやった」という経験は、必ず人生のどこかで生きてくる。僕もそう信じて、毎日を全力で生きています。

いけだ・こう 1995年、南砺市生まれ。2014年3月に高岡龍谷高校調理科を卒業後、東京のフランス料理店で4年間修業。19年にテレビドラマ「鎧勇騎月兎(がいゆうきげっと)」でデビューし、ドラマ「グランメゾン東京」や「ちむどんどん」に出演。現在は「ZIP!」の「旅するエプロン」を担当する。調理師免許と食育インストラクターの資格を持つ。