今回はコミュニケーションの特性と支援について、私がかつて出会った当事者さんとのエピソード(失敗談)を交えてご紹介します。

私が20代の頃、Cさんと畑作業をしていた時のことです。Cさんに「畑に野菜の種をまいたから、明日から毎日水をまくように」と伝えると、翌日、雨の中で傘をさして水をまきに行こうとしたのです。慌てて引き止めて「雨が降った時は水まかんでいいが。わかった?」と伝えると、「わかった」と返事をするものの、雨が止んだ午後には再び水をまきに行こうとしたのです。正直なところ、私には驚きしかありませんでした。

「何回言わせるがよ!」→「3回だよ」

また別の日、水を出したままで放置するCさんに、「水、出しっぱなしだよ」と何回も注意しました。しかし、いっこうに改まらなかったので「俺に同じこと何回言わせるがよ」と強い口調で叱りつけてしまいました。ところが、返ってきたのは「北川さん、3回だよ」との一言のみ。私が期待した蛇口の水を止める行動にはつながりませんでした。私は回数を聞いたのではないのですが、どうやらCさんにその意図が伝わらなかったようです。


(画像提供:PIXTA)

言葉の裏を読み取るのが苦手

コミュニケーションの特性にもいろいろありますが、Cさんのように知識としての言葉は正しく理解できても、言葉の裏を読み取ることが苦手というケースがよく見られます。それが原因で意思表示が上手くいかず、さらには、自分が興味のあることや頭に浮かぶことを一方的に話そうとするため、「他の人の言うことを聞かない自分勝手な人」との印象を強く持たれ、結果として生き辛さを感じながら生活しておられる方がたくさんいらっしゃいます。

伝えると伝わるは違う

私は講演の依頼をいただく度に「伝えると伝わるは違う」という内容を盛り込むように心掛けています。Cさんとの失敗から学んだ「支援者側が伝えたと思っていても相手が理解していなければ、それは伝えたことにはならない」ことや「言葉が伝わったとしても、内容が伝わっているとは限らない」ことを、支援をする側は常に肝に銘じていただきたいと願っているからです。

もし、私が当時に戻ることができれば、Cさんには、「毎日の水まきはお願いするけど、雨が降っている時や雨が降った後、雨が降りそうな時はまかなくていいよ」と伝えてあげたいです。また、「何回言わせるがよ」と厳しく叱るのではなく、「お水止めようね」と優しく具体的に伝えてあげたいです。ゴメンナサイ。




北川忠(きたがわ・ただし) 富山大教育学部卒。社会福祉法人めひの野園で長年、自閉症や成人の発達障害者の支援にたずさわり、2016年から県発達障害者支援センター「ほっぷ」に赴任。24年から社会福祉法人新川会、地域生活相談室に勤務。現在も発達障害に関する研修会講師や相談業務を行う。富山短大幼児教育学科非常勤講師。67歳。