4月13日に開幕した大阪・関西万博。10月13日までの会期中、世界各地の国・地域の賓客を迎える迎賓館のエントランスを、立山町虫谷の和紙職人、川原隆邦氏が制作した和紙アートの作品(1・5メートル×6・5メートル)が彩る。作品制作は、川原氏が日本各地を訪れて厳選した富山など7都道府県の素材を使い、日本の自然や風土を表現した和紙の新たな形を模索する試みだ。「BIRUDAN」をシリーズタイトルとし、会期中に入れ替えながら計7作を発表するが、迎賓館には一般客が立ち入ることはできない。川原氏が各作品を解説し、それぞれに込めた思いを全7回にわたって語り尽くす。(聞き手・柵高浩) 

※作品入れ替えに合わせて随時掲載します

迎賓館に展示されたシリーズ第1弾の「利島」

椿油の生産量日本一

 シリーズ1作目(4月13日〜5月8日まで展示)は東京都の伊豆諸島の一つ、利島(としま)からインスパイアされた作品「One Happiness(ワン・ハピネス)」。ヤブツバキを素材に用い、太平洋に浮かぶ利島の夜明けの情緒を和紙で表現した。

 利島は、伊豆諸島の大島と新島の間に位置する周囲長約8キロの小さな島。島全体が日本固有種のヤブツバキの林に覆われ、その本数は約20万本に及ぶ。防風林として植えられたツバキが島民の暮らしを守ってきた。今では島の産業にまで発展し、椿(つばき)油の生産量日本一の「ツバキの島」となった。利島の土壌や周囲の海の環境はツバキによって形成されている。

 ツバキのように季節を限定する植物は、その時にしか手に入れられない。試験制作もタイミングを失うと、1年後になってしまうので緊張感があった。

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