「チェコ・デザイン100年の旅」 富山県美術館で7月28日まで
19世紀末から現代までのチェコ・デザインを紹介する展覧会「チェコ・デザイン100年の旅」に合わせて開催されたコノコト企画「親子でArt鑑賞会」。0歳児から中学生まで、15組の親子が参加しました。「作品に触らない」「小さな声で話す」「ゆっくり歩く」の鑑賞マナーを学んだ後、いよいよ展覧会場へ。学芸員の稲塚展子さんを案内役に、チェコへの小さな旅に出発しました。
稲塚:まず皆さんの中で、チェコに行ったことがある方はおられますか?
パパ・ママ:―――ありません。
稲塚:大丈夫。私も行ったことがありません。
稲塚:チェコは北海道よりちょっと大きいくらいの小さな国です。とてもきれいな街で、人々の「美しく暮らしたい」という気持ちが強い国です。この展覧会には、プラハ工芸美術館からやってきた作品を中心に約250点を展示しています。
「ジスモンダ」1894-1895 チェコ国立プラハ工芸美術館蔵
まずは、120年くらい前に、チェコを代表する画家アルフォンス・ミュシャの作品で、お芝居「ジスモンダ」のポスターを紹介します。
ミュシャは、絵の勉強のためパリに来ていましたが、このポスターを描いたことで、パリで大人気になりました。ポスターに描かれているのは当時、人気女優だったサラ・ベルナール。彼女はこのポスターをとても気に入り、自分のポスターをまたミュシャに描いてほしいと言いました。なぜだと思いますか?
子ども:??
稲塚:みなさんは大好きなお母さんの絵を描く時にどんな風に描きますか?
子ども:面白く描く!
稲塚:面白く描くのもいいですね。
ミュシャは、“ぽっちゃり”をすっきりスリムに、実際以上に素敵に美人に描きました。ちなみに、会場最後のほうに、同じ女優を面白く?描いた作品があるので、見つけてみてください。
ミュシャはポスターの他にも、ポストカード、本の挿絵、商品のパッケージなども手掛けましたが、お金の絵も描いています。チェコで新しいお札をつくることになったとき、チェコの人々は、毎日目にするものだからこそ、特別な時につけるブローチと同じように美しいものであってほしいと、自分たちが大好きな画家であるミュシャにお願いしたのでしょう。
食器セット 1932年、施釉白色磁器
チェコ国立プラハ工芸美術館蔵
稲塚:みなさんのお家ではどんなお皿を使っていますか?
子ども:お花の絵が描いてあるお皿。
稲塚:100年前は食器の模様は手描きだったため、お花模様の食器はとても高価でした。
そんな時代の後に作られたのが、この真っ白な食器です。
絵柄をなくし真っ白にするかわりに、できるだけきれいな形で素敵な食器にし、お金持ちだけでなく普通の人たちの普段の暮らしに気軽に取り入れてもらいたいと作られました。
展示してあるこの食器は、チェコのあるお家で長く使われていたもので、テーブルクロスも90年くらい前のものです。全部きれいな状態でそろっているので、世界中の人に見てほしいと美術館に寄付されたようです。
掃除機「ETA402ジュピター型」1956-59年
チェコ国立プラハ工芸美術館蔵
稲塚:ここに掃除機がありますよ。美術館に掃除機が展示されているなんてびっくりですね。
60年くらい前のもので、隣にあるのはオレンジ色のプラスチックのバスケットです。
掃除機はプラハ工芸美術館の副館長のご家族が5年前まで使っていたものです。バスケットは果物やパンを入れるもので、チェコのどこの家にもあるそうです。みなさんもお家にあるお気に入りのものを大事に使っていたら、いつか美術館に展示されることがあるかもしれませんよ。
1948年ごろ
チェコ国立プラハ工芸美術館蔵
稲塚:ここにはチェコからきたおもちゃが集まっています。子どもの頃からきれいなものにたくさん出会ってほしいと作られたおもちゃたちです。女の子に聞いてみようかな。お人形のお家を持っている子はいますか?
子ども:持ってる!
稲塚:この人形のお家のセット(写真中央)は1948年のものです。当時の団地で実際に使われていたものと同じデザインです。洋服ダンス、ダイニングテーブル、キッチンは細かいところまでそのままそっくりに作られているので、当時の暮らしを知ることができます。
キツネやネコのプラスチックのおもちゃもありますね。3階のアトリエでは、お腹がアコーディオンになったライオンやキツネを作る、アコーディオン動物の紙の工作教室も楽しめますよ。
「ダーシェンカ あるいは子犬の生活」初版 1933年
チェコ国立プラハ工芸美術館蔵
稲塚:「ダーシェンカ」の絵本を知っていますか?
1930年頃に出されたチャペック兄弟の絵本で、自分たちの家で産まれた子犬の成長を描いたものです。チェコは戦争に巻き込まれたり、人々が自由に旅行もできない時代もありました。チャペック兄弟は、みんなで幸せな暮らしを送りたいという思いを込め、子どもたちのために絵本をたくさん出しました。
同じ頃、となりの国ドイツにはヒトラーという人がいて、自分たちに抵抗する人や自分たちと考え方が合わない人たちを罪もないのに捕まえました。
恐ろしい時代の中で、チャペック兄弟は子どもたちの気持ちを守ろうとたくさんの本を書いたので、ヒトラーに目を付けられました。ヒトラーの手下が弟を捕まえに自宅にやってきたときには、弟は病気ですでに亡くなっていました。兄は捕えられ収容所で亡くなっています。
大変な時代もあったチェコという国ですが、人々はどんな時でも幸せな気持ちになれる本やおもちゃ、美しいデザインの食器や家具を大切にしてきました。その1つ1つを見ていると、自分たちの素敵な国を守っていきたいという強い思いが伝わってきますね。
チェコの小さな旅の最後には、写真撮影コーナーとアニメーションが見られるコーナーがありますので、ぜひ楽しんでいってくださいね。
詳しくはイベントサイトから。
【お出かけメモ】
「チェコ・デザイン100年の旅」
会期:7月28日(日)まで
会場:富山県美術館
富山市木場町3−20
TEL 076-431-2711
https://tad-toyama.jp/exhibition-event/7639
開館時間:9:30~18:00(入館は17:30まで)
休館日:水曜、7月16日(火)
観覧料:一般900円 大学生450円、高校生以下無料