県山岳連盟ガッシャーブルム遠征隊の佐伯成司(まさし)=立山町芦峅寺=は当時35歳。体力・スキルとも全盛期を迎え、より難易度の高いチャレンジを求めていた。世界に14座しかない標高8千メートルを超える山を目指すのは「登りたい。ただそれだけ」というクライマーとしての本能だった。

当時を振り返る佐伯=立山町芦峅寺の自宅
ガッシャーブルムⅠ峰(標高8068メートル)への出発当日、佐伯は仏壇の前で両親と妻とで水杯を交わした。戦争での無事を祈るための習わしだそうで、遠征のたびに欠かさず行っていた。その頃は既に出発に向けた一連の儀式としか捉えていなかったが、家族はしんみりとした表情を浮かべていた。
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