生きる価値のない自分への怒り、悲しみが行為に
明橋 リストカットとは、カッターナイフや包丁、定規の角など、とがったもので手首を傷つける行為です。他にもシャープペンシルで刺したり、上腕やおなか、足を傷つけたりすることもあります。
いずれも多くは傷は浅く、動脈が切れるほどではありません。「死にたい」という気持ちはあるけれど、本当に自殺するつもりではないことが分かります。
リストカットはアピール力が強いため、「アピールのために、そんな行為をしているのではないか」と考える人もいます。もちろん本人の中には、つらい気持ちに気付いてほしいという気持ちもありますが、決してアピールが主目的ではありません。それよりずっと大きいのは、存在価値のない自分への怒りや悲しみ、つまり自己否定感です。
「学校行けない自分。人生終わった」
不登校の子どものケースでは、学校に行けていないことで「人生が終わった」とまで感じてしまうことがあります。学校は成長するための手段の一つで、学校に行かなくてもしっかり成長し社会で活躍している人はたくさんいます。
そもそも日本でみんなが学校に行くようになったのは明治時代からで、それ以前は学校に行っていない人がたくさんいました。しかし不登校の子どもたちは「周りのみんなは学校に行っている」→「自分は行けていない」→「人生が終わった」となってしまうのです。
子どもたちはさらに「学校に行けず、親にも迷惑をかけている。生きていても仕方がない」→「のうのうと生きている自分が嫌。つらい」→「本当は死なねばならないけれど、今すぐ死ぬこともできない」と自分を追い込み、リストカットという行為に及びます。傷つけることで「生きる価値はないけれど、これだけ罰を受けたなら、もう少し生きていてよい?」と感じ、苦しみから少し解放されるのです。
■リストカットの背景にある気持ち
- 自分に対する怒りや悲しみ
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いじめを受けた相手など人に対する怒り
やり返したらもっとひどい目に遭うため、やり返すことができない。そんな時、やり場のない怒りが、自分に向くことがある。 - 人に気づいてほしい、助けてほしいというメッセージ
(下)では対応策をご紹介します。
明橋 大二(あけはし・だいじ)
真生会富山病院心療内科部長、「子育てハッピーアドバイス」シリーズ著者
1959年、大阪府生まれ。 京都大学医学部卒業。 国立京都病院内科、名古屋大学医学部付属病院精神科、愛知県立城山病院をへて現職。
精神保健指定医、小学校スクールカウンセラー、高岡児童相談所嘱託医、NPO法人子どもの権利支援センターぱれっと理事長。専門は精神病理学、児童思春期精神医療。
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