10月中旬、担任をしている5年生のハルコの母親から電話があった。
「娘が友達と繁華街に出かけては、化粧品やアクセサリー、小物などをたくさん買い込んでいる。心配だが、詳しく話してくれない。先生から話を聞いて指導してほしい」

ハルコは4年生まで、あまり目立つ存在ではなかった。高学年になり、女子の間でファッションや芸能人への関心が高まるにつれ、一躍注目を浴びるようになった。やがて、ハルコを中心に女子数人が集まるグループができていた。

彼女たちは、自分たちだけで通じる合言葉を用いることで仲間意識を高め合い、休憩時間や放課後、人目に付かない場所に集まっておしゃべりに興じる。その一方で、絶えず誰か一人を仲間外れにするなど内輪もめが続いていた。

他のグループとぶつかることもしばしばだった。自分たちの行動に批判的な者を無視したり、悪口を言いふらしたりした。

男子は、このような状況を面白がって眺めたり、はやし立てたりし、やがて女子たちの異様な雰囲気に巻き込まれクラス全体が落ち着きを失っていった。

    ◇      ◇

 ハルコの母親から電話があったのは、ちょうどそのころだった。対応策を練っていた私は、指導の好機と捉え、子どもたちから話を聴き始めた。

挿絵・金子浩子

【ハルコを取り巻く子どもたちの話】
・ハルコは10月になってから化粧品やアクセサリー、小物などをこっそりと学校に持ってくるようになった。
・休憩時間になると友達と一緒にトイレや特別教室に閉じこもり、持ってきたものを見せびらかし、マニキュアを塗り合った。
・その噂が一気に広まり、好奇心に駆られた女子が次々とハルコたちの仲間に加わり、「マニキュア塗り好会(ぬりこうかい)」とネーミングされた。
・休みの日には「マニキュア塗り好会」の仲間を誘って街に出かけ、いろんな店を回りながら化粧品などを手当たり次第に買い込んだ。

【ハルコに同調しない子どもたちの話】
・ヒロコ、クミコ、トミコ、ミツコの4人組は、ハルコたちに「そんな物を学校に持って来たらだめだよ」「先生に見つかったら叱られるよ」と時々声をかけ、そのたびに口論になった。
・ある日、ハルコが「あの人たち(ヒロコたち4人組)、私たちを無視すると言ったらしい」とデマを流した。それが引き金となりハルコたちは4人組を徹底的に無視するようになった。

これらの情報をもとに、私はハルコ本人から話を聴くことにした。
 

〔付記〕事例はプライバシーへの配慮から登場人物を匿名とし、事実関係についても若干の修正が施してあることをお断りしておきます。
これまでのシリーズ


けん玉で元気を取り戻した「ノリオ」

 突然、転校してきたノリオは、金銭トラブルを起こした父親と一緒に全国各地を転々としていた。どの学校でも出席状況が悪く、基礎学力が全く身に付いていない。衣服や食事も満足に与えられず、顔は青白く、やせ細っていた。そのノリオが、ある日、けん玉を持って学校にやってきたー。


いじめっ子「ツヨシ」

 ツヨシは脅しと暴力でクラスを支配し、教師の見えないところでいじめを繰り返していた。担任の私は、学級懇談会で保護者からその事実を告げられ、ショックを受ける。そして作文を書かせることで子どもたちの心を開いていく。一方、ツヨシの両親とも話し、家庭で取り組んでほしいこと3つを提案した―。


新1年生「パクくん」 

 外国籍のパクくんは、半年前、父親の海外留学に伴って家族そろって来日し、4月に新1年生として入学したばかり。まもなく「学校に行きたくない」と言い出し、上級生による集団いじめが発覚した。その様子はたくさんの子どもが目撃し、見て見ぬふりをしていたー。

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◆寺西 康雄(てらにし・やすお)◆

 富山県内の小・中学校と教育機関に38年間勤務し、カウンセリング指導員、富山県総合教育センター教育相談部長、小学校長等を歴任。定年退職後、富山大学人間発達科学部附属人間発達科学研究実践総合センターに客員教授として10年間勤務し、内地留学生(小・中・高校教員)のカウンセリング研修を担当。併行して、8年間、小・中学校のスクールカウンセラーを務める。

 現在は富山大人間発達科学研究実践総合センター研究協力員。趣味・特技はけん玉(日本けん玉協会富山支部長、けん玉道3段、指導員ライセンスを所持)。