「いじめられっ子」役のハルコが一人で学校の廊下を歩いている。
反対側から「いじめっ子」役のケンタ、コウタ、ユウコ、マサコが近づく。

ケンタ「ハルコ、おまえは近ごろ生意気だぞ!」

コウタ「もう、これから一緒に遊ばんからな!」

ユウコ「あんたと一緒におったら、臭くなっちゃう!」

マサコ「あんたなんか、どっかへ転校しちゃえば!」

ハルコ「お願い、私を仲間外れにしないで!」

ケンタ・コウタ・ユウコ・マサコ「…(そっぽを向いて無視をする)」

ハルコ「ねえ、お願い…どうして無視するの…」

ケンタ・コウタ・ユウコ・マサコ「…(無視を続ける)」

ハルコ「(突然、土下座する)仲間に入れて…ねえ、お願い…」

  「はい、ストップ」

「演者」である6班の子どもたちの迫真の演技に「観客」である1~5班の子どもたちは固唾をのんで見ていた。

演技の前半部分では笑みを浮かべながら見ている子どももいた。後半部分では真に迫ったハルコの演技に圧倒され、教室全体が静まり返った。
そこで私がストップをかけたのだった。

ロールプレイを取り入れた授業では、ただ単に演じて終わるのではなく、子どもたち一人一人の振り返りを大切にする。

まず、「いじめっ子」役を演じたマサコにインタビューした。

  「いじめているときは、どんな気持ちでしたか?」

マサコ「本当に『いじめっ子』になったような気持ちでした。『いじめっ子』なのだからこれぐらい言っても当たり前だと思ってやっていました」

  「いじめられ役が土下座をした場面では、どんな気持ちでしたか?」

マサコ「たとえ土下座をされても『いじめっ子』はいじめを止めないだろう、もっといじめを続けるだろうと思いました」

  「劇が終わった今、どう思っていますか?」

マサコ「劇をしているときは、いじめられている人の気持ちなんか考えなかったけど、今は『あんなことを言わなきゃよかった』『かわいそうなことをした』と後悔しています。本当にいじめをなくさなければならないと思っています」

次に、「いじめられっ子」役を演じたハルコにインタビューした。

  「いじめられている人の役をやってみて、どうでしたか?」

ハルコ「劇なのに本当にいじめられている気がしてきました」

  「最後の場面では、どんな気持ちでしたか?」

ハルコ「土下座をしながら『仲間に入れて…ねえ、お願い…』と言ったとき、悲しくなってきて目に涙がたまりました」

  「劇が終わった今、どう思っていますか?」

ハルコ「本当にいじめられている人の気持ちがよく分かりました。この劇を全校のみんなに見てもらったらいじめはなくなっていくでしょう。これからも、いじめをなくすために努力していきたいと思っています」

挿絵・金子浩子
〔付記〕事例はプライバシーへの配慮から登場人物を匿名とし、事実関係についても若干の修正が施してあることをお断りしておきます。

◆寺西 康雄(てらにし・やすお)◆

 富山県内の小・中学校と教育機関に38年間勤務し、カウンセリング指導員、富山県総合教育センター教育相談部長、小学校長等を歴任。定年退職後、富山大学人間発達科学部附属人間発達科学研究実践総合センターに客員教授として10年間勤務し、内地留学生(小・中・高校教員)のカウンセリング研修を担当。併行して、8年間、小・中学校のスクールカウンセラーを務める。

 現在は富山大人間発達科学研究実践総合センター研究協力員。趣味・特技はけん玉(日本けん玉協会富山支部長、けん玉道3段、指導員ライセンスを所持)。