世界ポスタートリエンナーレトヤマは、県立近代美術館時代の1985年にスタートし、今回で12回目となる世界有数のポスター公募展です。今回は小学校5年生の女子3人とママで訪れ、学芸員の稲塚展子さんに案内していただきました。

稲塚:トリエンナーレとは、3年に1回開かれる展覧会のことです。だから「世界ポスタートリエンナーレトヤマ」というのは、3年に1回、世界中から富山にポスターが集まってくる展覧会っていう意味なんです。
今回は世界の47の国と地域から3239点が集まり、その中から審査員が皆さんに見てもらいたいと選んだ376点を展示しています。

子どもたち:えっ!10枚に1枚くらい!

稲塚:今回はいいポスターがたくさんあって、審査員はどれを入選にするか…ってすごく悩んだのだと思います。その中からさらに、スイスやポーランド、日本のデザイナー5人が、全部で23点の賞を選びました。
みんなポスターは描いたことある?

子どもたち:学校で、お知らせのポスターを描いたことある!

稲塚:そうだね。会場にも音楽会などいろんなお知らせポスターがあります。ほかにも、世の中のいろんなこと知ってほしいと作られたポスターもあります。いまからたくさんの作品を見ていくけど、最後に自分の好きな作品を聞くので、探しながら見てね。

「グラフィック・フェスティバルーパリを祝う」ヤン・バイトリク(ポーランド)銅賞

稲塚:では私の好きな作品から1点ご紹介しましょう。

子どもたち:かわいい!

稲塚:そうでしょう。怪獣が楽しそうにキックボードを走らせているね。周りにいる人たちも、とっても楽しそう。
2年前のグラフィック・フェスティバルにあわせて描かれたポスターで、パリの街をポスターの美術館みたいにしようと、街に世界中のデザイナーが作ったポスターがたくさん貼られたそうです。

ママたち:手描きのこの雰囲気もいいですよね。

稲塚:そうなんです。ポスターは手描きだったり、紙を貼ったり、絵や文字、写真の組み合わせだったり。何をどんな風に伝えたいかで、いろんな方法があります。「1枚の紙」という点がどれも同じなんです。

 

「箱屋の箱になる文字型展開図ポスター」 森川瞬(北海道) 金賞

稲塚:この作品、よーく見てみて。

子どもたち:あ!なんか線が入っている。もしかして箱になる?

稲塚:正解。審査では「アイデアはすばらしいけど、これはポスターと言えるのか?」という意見もあったんだけど、「こんなざん新なポスターがあってもいい」「新しい形のポスターを考えることもこれから大切なのではないか」という考えから、金賞になりました。
森川さんは北海道でお仕事をしています。今地震で大変だと思いますが、きっと街を元気にするような面白い作品をこれからも作ってくれると思います。

 

「茶々」 中澤定幸(長野) 銅賞 

ママたち:このポスター、面白い!帽子の中にお抹茶!

稲塚:タイトルの「茶々」というのは、制作した中澤さんが参加している茶道サークルの名前だそうです。このポスターは、外国の人が見ても、茶道に関するポスターだということが分かります。そして説明が書いてなくても、見た人の目をつかんで離さない力がある。これがポスターの魅力なんですね。

 

「LIFE」永井一正(東京)審査員特別賞

子どもたち:このライオンとフクロウ、どこから見ても目が合う!

稲塚:このポスターを作った人、何歳くらいだと思う?

子どもたち:40代?50代?

稲塚:正解は89歳。これまでポスタートリエンナーレの審査員をしておられた人で、前回の11回で「若い人に任せたい。未来につないでください」と辞められました。そして今回は一人の応募者としてこのポスター展に挑戦されました。

ママたち:この赤色といい、線の感じといい、とてもエネルギッシュですね。

稲塚:そうですよね。応募をするということは、落選することも、もちろんある。それでも応募されたんです。いくつになっても新しい作品を作り、チャレンジする勇気を忘れないでほしい。私たちにそんなメッセージを伝えてくれます。

 

「bvh グラフィック週間」 アンドレ・バルディンガー(スイス)とヴェフー・トアン(ドイツ) グランプリ 

稲塚:何に見える?

子どもたち:水みたい。

稲塚:そうだね。さわやかな水が流れているよう。これはポスターを作ったヴェフーさんとバルディンガーさんの2人の名前の頭文字、b、v、hを描いているんです。
この3つの文字、つながりあって1つの心臓みたいに見えませんか?2人が1つの心臓となってドキドキするような仕事をしていきたい、そんな思いが込められているのかもしれません。

「LIFE」と「bvh」。審査員5人はどちらをグランプリにするか1時間以上も話し合いました。そして私たちにチャレンジする心を伝えてくれる「LIFE」は、かけっこの順番のような1番、2番で決めることはできないと、審査員特別賞を設けました。とっても素敵なことですよね。

 

「人種差別」 グジェゴジ・ムィチカ(ポーランド) 銅賞 

稲塚:ポスターは、楽しい作品ばかりじゃないんです。
この作品は、犬が鏡に映る自分に向かって吠えているね。書かれているRACISMというのは人種差別という意味の英語です。このポスターは、誰かに吠えることは結局、自分に返ってくるということを表しているのか、それとも肌の色の違いで吠え合っていることを表しているのか、いろんなことを考えさせてくれます。このように世の中で起きていることを一緒に考えようというポスターもあるんです。

世界のポスターを見ていると、遠い国の人とお話しをしているような気持ちになります。これがこの展覧会の面白いところだと思っています。

子どもたち:自分が思いつかないようなポスターがたくさんあって楽しかったー。

ママたち:これまで街中でポスターを見かけても、なんとなくしか見ていなかったけど、今回お話しを聞きながらじっくり見て、何を伝えているのかがよく分かりました。これからポスターの見方が変わりそう!

子どもたち:私は、小鳥が描かれた音楽会のポスターが好きだった。きれいな音色が聞こえてきそうで!トロのお寿司が、黒い台に映って唇みたいに見えるポスターも面白かったよね!

鑑賞後、3階のアトリエへ。様々な形のマグネットを壁に貼って遊んでいるうち、いつの間にかポスターを作ってしまった女子たちでした。

 

【お出掛けメモ】
「第12回世界ポスタートリエンナーレトヤマ2018」
会期:10月8日(祝・月)まで
会場:富山県美術館(富山市木場町3-20)
TEL:076-431-2711  
http://tad-toyama.jp/

開館時間:9:30~18:00(入館は17:30まで)
休館日:水曜日(ただし10月3日は臨時開館)、9月18日(火)
観覧料:一般:1,100円、大学生:550円。児童・生徒(小・中学生、高校生など)は、企画展・コレクションとも観覧無料です。