詩人、高田敏子さんの「ポケット」という詩が忘れられません。

   

 ポケット

  ポケットをつくろう

  つくろってもすぐ破れるポケット

  夜ふけの燈の下でつくろってやる

 

  あしたまた 子どもは入れるだろう

  ビー玉や  メタルや小石

  ネジクギや  こわれたペン

  いっぱいつめこむだろう

 

  ポケットの中身は見えるけれど

  子どもの心のポケットには

  何が入っているだろう

  いいかけて口をつぐんでしまった言葉

  幾重にも小さくたたんだテスト用紙

  おとなへの不信や  悲しみが

  もしや小さくたたまれて

  入っているのではないだろうか

 

  見えない心のポケットも

  つくろってやらなければ

 

 小学生のときにみた映画「二十四の瞳」に感動し、大石先生のような先生になりたいというのが幼いころからの私の夢でした。1969年、私は念願の教師になることができました。それ以来、富山県内の小・中学校と教育機関に38年間勤務しました。定年退職後、10年間、富山大学客員教授を務め、現在は研究協力員として2年目を迎えています。

 教職生活は50年近くになりますが、その内の17年間は、教育相談・カウンセリングにかかわる仕事を通して、いじめや不登校などに悩み苦しむ子どもと保護者の話に耳を傾け、寄り添ってきました。

 私は相談室を訪れる保護者に対し、時々、「あなたのお子さんの『よいところ』は、どこですか」と問いかけることがあります。即座に返答される保護者もありますが、しばらく考え込んでから「見つかりません」とおっしゃる場合も少なくありません。そのようなとき、「本当にそうでしょうか」と問い直し、「これから私と一緒に、あなたのお子さんの『よいところ』を見つけていきましょう」と呼びかけることにしています。

 子どもの「よいところ」を見つけるという営みは、たやすいことではありません。「見れども見えず」という言葉があるように、しっかり見ようとしなければ見えません。「眼力」が必要です。若き日の私は眼力を持ち合わせていませんでした。そんな私を変えてくれたのは、ほかならぬ「子どもたち」でした。私の出会った子どもたちは数えきれませんが、どんな子どもにも「よいところ」がありました。私は子どもの「よいところ」を見つけることによって「見えない心のポケット」をつくろってきたように思います。その拙い歩みについて事例をもとに紹介いたします。(事例はプライバシーへの配慮から登場人物を匿名とし、事実関係についても若干の修正が施してあることをお断りしておきます)

【次回】 けん玉で元気を取り戻したノリオ

寺西 康雄さん

◆寺西 康雄(てらにし・やすお)◆

 富山県内の小・中学校と教育機関に38年間勤務し、カウンセリング指導員、富山県総合教育センター教育相談部長、小学校長等を歴任。定年退職後、富山大学人間発達科学部附属人間発達科学研究実践総合センターに客員教授として10年間勤務し、内地留学生(小・中・高校教員)のカウンセリング研修を担当。併行して、8年間、小・中学校のスクールカウンセラーを務める。

 現在は富山大人間発達科学研究実践総合センター研究協力員。趣味・特技はけん玉(日本けん玉協会富山支部長、けん玉道3段、指導員ライセンスを所持)。