記念対談は、県内企業・団体のトップが新時代を拓く経営戦略とその思いを語ります。タイトル「自我作古」は前人未踏の分野に挑戦し、待ち受ける困難や試練に耐えて開拓に当たるという、勇気と使命感を表した言葉。「我(われ)より古(いにしえ)を作(な)す」と訓む。出典は元代に編纂された中国の歴史書「宋史」。書は日本北陸書道院の青柳雛理事長。

 

いしばい・かずとも 1970年射水(旧新湊)市生まれ。東海大学政治経済学部卒業後、神奈川県の大手ビルダーを経て、1997年石友ホーム株式会社入社。2003年常務取締役、2006年専務取締役、2013年代表取締役社長(現職)。

北陸の風土に向き合った家造り

 石友ホームは北陸の厳しい気候と風土に向き合った設計で、安心して暮らせる木造住宅を提供してきました。長年地震に強い家造りを追求し、2月には大手メーカーとの共同建築事業をスタート。耐震技術の提供を受けて、安全で快適な暮らしにつなげます。同社の石灰一友社長と蒲地誠北日本新聞社社長が対談。話題は能登半島地震から、日本人のライフスタイルの変化などにも及びました。


 

蒲地 元日に能登半島地震が発生し、今も復旧作業が続いています。石友ホームは富山に加え、石川と福井の北陸3県に営業拠点があります。震災への対応は大変でしたか。

石灰 最初はとにかく社員の安否確認からですね。最後の1人の無事が確認できたのは、1月4日でした。進行中の現場の被害状況を調査し始めたのは6、7日ごろです。職人さんの安否を含め、北陸3県全ての現場被害の大枠を確認するのに10日間も要しました。当時は道路が寸断され、簡単には現地に行けませんでしたからね。
 さらに細かい調査のために1月、2月の間は現場を全てストップしました。元通りの業務に取り掛かれたのは、3月になってからです。幸いなことに当社のOBオーナー様(顧客)宅の建物には、ほとんど被害がありませんでした。当社は1995年の阪神淡路大震災を受け、高耐震のハイペア工法を開発し、年々進化させてきました。そういった地道な企業努力の積み重ねの成果かもしれません。

業界全体の課題

蒲地 今回の震災をきっかけに多くの人が住まいの大切さを再認識しましたね。

石灰 建築業界全体の課題も浮かび上がりました。建物の耐震性能は年々向上しています。しかし、今回ほどの液状化や地盤沈下は見たこともない。東日本大震災に次ぐ規模だそうですね。北陸でこれほど広範囲にわたって起こるとは想定もしていませんでした。この対応には皆さん、大変苦労させられています。これは一企業だけでどうにかなる問題ではありません。国や県、業界全体で対策を練らないといけません。

 最近の調査で、日本海側の活断層や断層帯が特定されましたね。震度6弱以上の地震を引き起こしたり、大きな津波を引き起こしたりする可能性があるそうです。今回の能登半島地震以上の被害も想定するべきでしょう。さらに大きな災害にも耐えられる家造りが求められています。

 

蒲地 企業理念に「一生涯をこころゆたかに暮らす」を掲げています。それに基づいて、どんな家造りをしているのでしょうか。

石灰 弊社は製材業から始まりました。そこから住宅メーカーの下請けとして工事を請け負っていた時代があります。「石友ホーム」として、本格的に木造建築に力を入れたのは1988年からです。
 私たちが木造にこだわるのは、日本の建築資材として最も適していると考えるからです。鉄筋などと比べても、木材は使いやすくて安価です。私たちは創業の経緯から、木材の特徴を熟知しています。製材業という出発点を生かして、高精度で高性能な木材を加工するプレカット工場も備えています。最先端の防腐防蟻対策を施した木材を提供しています。
 お客様のニーズは時代や年齢によって変わります。特に最近は家に求める価値観の変化が著しいです。「家だけ立派であればいい」という時代ではなくなりました。暮らしの中でお客様が何を大切にしたいのか。どんな夢をかなえたいのか。注文住宅は、その理想を実現するためのお手伝いができます。人間の寿命は80年ほどでしょうか。その間をどう「こころゆたかに」暮らしていただくか。敷地や予算を最大限に生かし、懐の深い住宅を造ってサポートしたいです。

寄り添った提案

蒲地 20代と70代では家に求めるものが違いますね。

蒲地誠北日本新聞社長

石灰 安全安心の家を前提として、お客様が求めている暮らし方を引き出すのが我々の役割です。家を建てるのは、ほとんどの人が一生に1回です。その際に初めて家造りについて真剣に考える人がほとんどでしょう。そこで大切なのが、暮らす人に寄り添ったプランニングです。我々がお客様の思いを引き出すこともあれば、お客様のライフスタイルに合った提案もします。分譲住宅ならではのメリットがあるのは理解しています。しかし北陸の人たちの家に対する思いは格別です。それに応えられるのはやはり注文住宅でしょう。

蒲地 どんなメカニズムなのですか?

石灰 当社のCNFは水の力とパルプのみで製造しています。安全性が高いだけでなく、CNF表面が水と結び付きやすい親水性と、油と結び付きやすい疎水性の両方の性質(両親媒性)を持つという特徴があります。この両親媒性がポイントで、CNFが水をはじく葉面に付着しやすくなり、葉面をネット状に覆うことで物理的に病原菌の侵入を防ぎます。また、付着したCNFが葉面を親水性にすることで、病原菌が葉面だと認識できず、感染行動を起こさなくなります。この二つの効果で菌の侵入を防ぐというわけです。

蒲地 これからの時代に求められる住まいとはどのようなものでしょうか。富山県に本社を置く企業として、全国展開のハウスメーカーとの違いはありますか。

石灰 住まいに正解があるわけではありません。全国展開する大手メーカーの家は大変素晴らしいと思う。高性能ですし、全国どこで注文しても同じように高いレベルのものを提供しています。
 それに対して私たちができるのは、富山で、北陸で家を建てるということに対して全力で向き合うことです。北陸の気候と風土は厳しい。高温多湿の夏と、寒くて長い冬がある。湿度も高く、水分を含んだ重い雪が降ります。風習や風土、気候、歴史など、それらを全部取り入れて提案するのが私たちです。
 例えば、新湊は曳山まつりがありますね。皆さん、地域の伝統とつながりを大切にされている。だからこそ、親戚が集まって祭りを見るための部屋が必要という要望もあります。
 そういった価値観を知っているのが、地域のビルダーの強みだと思います。石友ホームは営業にせよ、設計にせよ、全てそれぞれの地元で採用しているんですよ。富山なら富山、福井なら福井、石川なら石川の社員だからこそ分かること、発想できることがあるんです。

 

蒲地 今後の展望を教えてください。

石灰 当社グループの「インカムハウス」は、積水ハウスとの共同建築事業「SI(エス・アイ)事業」を開始しました。積水ハウスが開発した耐震技術「基礎ダイレクトジョイント構法」などを提供していただきます。
 大きな震災を経るたびに法律が改正され、住宅に求められる性能が上がっています。それは大変良いことなのですが、そこにはコストの問題も付いて回ります。住宅価格は上がる一方ですが、我々のような中小企業が対応するには限界があります。技術開発の面では、大手の研究力には勝てません。
 今回提携することになった積水ハウスのノウハウを活用すれば、コストダウンさせた上で家の性能を上げられます。積水ハウスからは職人さんへの指導なども学ぶところが大きい。我々がさらに成長する機会につながると確信しています。10年、20年先にはどうしたって人口減少が待っている。新築が減るのは間違いありません。その中でも地元で家を建てる企業として存続していくのは私たちの義務です。さまざまな客層から仕事を頂かないといけない。そのためには一つのブランドだけでやっていくのは無理があります。
 弊社グループには「石友ホーム」「ウッドライフホーム」「インカムハウス」「フレンドリーハウス」という四つのハウスメーカーがあります。それぞれでターゲット層を明確化して、お客様に合ったメニューを提供しています。多ブランド化してお客様の希望に応えることで、社員や職人さん、そしてオーナー様の方々の家を守っていきます。
 

石灰社長(左)と蒲地社長(石友ホーム本社応接室にて)

(2024年9月26日紙面掲載)


あの頃の私

 最初は家業を継ぐつもりはありませんでした。家業はもともと製材業だったのですが、若い頃の私はそこに未来を感じられなかったのです。本当は出版社に勤めたかったのですが、就職活動は思うようにはいきません。だから神奈川で別の仕事をしていました。しかし、27、28歳の頃に家族が病気になり、富山に戻り、うちの会社に入りました。

 その頃には住宅の仕事が始まっていました。私は建築のことなんて何も知りません。だから。最初は現場監督の下働きです。ただの雑用係です。何をすればいいかも分からないからとにかく荷物運びをしたり、掃除をしたり。やれることを一生懸命やっていました。

 そうすると、初めてお手伝いした1件目の新築祝いに呼ばれたんですよ。もちろん私が社長の息子だなんて誰も知りません。それなのにお声掛けいただいたんです。

 会場に行くと、施主の親戚の皆さんがすごく歓迎してくれた。その顔を見た時に「こんなにいい仕事はない」と実感し、背筋が伸びました。仕事をさせていただいた上に、感謝までしてもらえるんです。注文住宅が一生の仕事になると感じた瞬間でした。

 もちろん注文住宅は簡単な仕事ではありません。お客様の要望に応えるため、たくさんのハードルがある。車や洋服のように現物があるわけもないから、お客様の心の中から理想の姿を引き出さないといけません。参考資料がなく、答えがないものを造っているんです。これが注文住宅の世界の面白さでしょうね。

「あの頃の私」では、若手時代の印象深い出来事や仕事への思いを振り返ってもらいます




❶❷石友ホームの主力商品【ila】は一邸一邸のフルオーダー注文住宅。「WELL BEING LIFE DESIGN. 一生涯を、こころゆたかに暮らす。」を掲げ、国内最高等級である耐震等級3・断熱等級7を実現。さらに長期60年保証も実現した。

❸日本初の積雪時振動実験。北陸の特徴である「水分を多く含んだ重たい雪」が屋根に降り積もっている時期の地震でも耐えられることを証明した。
❹日本では珍しい乾式防腐防蟻処理装置。厳しい気候風土である北陸で、木の弱点である腐りやシロアリから「長期に渡って」住まいを守り、性能を維持し続けるために導入している。

高岡市下牧野36-2
TEL 0766-84-6110

 


北日本新聞は今年、創刊140周年を迎えました。本対談は、140周年と総合情報サイトwebunプラス開設の記念として展開するシリーズ企画です。

企画・制作/北日本新聞社メディアビジネス局