[ 講師 ]
大野 有生 氏
東京海上ディーアール株式会社
チーフデジタルオフィサー


20年にわたりロジスティクス・モビリティ領域のITコンサル、システム導入に従事。2024年より現職にて、モビリディ・SCM・サイバーセキュリティのDX事業開発、生成AIを巡る地政学や技術リスク管理の研究および教育機関での講義活動を行う。

リスクを管理し積極的な活用を

 生成AIは世界中で劇的に進化しています。今年1月には中国企業のディープシークが、低コストで高性能な生成AIモデルを発表し、世界に衝撃を与えました。OpenAIなど米主要企業の生成AIモデルに匹敵する性能の実現により、米株式市場では半導体大手NVIDIAなどAI関連株が急落したのです。これはAI版スプートニック・ショックと呼ばれ、国際的な開発競争を一気に加速させ、2月のAIアクションサミットでバンス米副大統領がAI規制緩和を世界のリーダーに訴えることにもつながりました。 
今、生成AIは、国や企業の未来を左右する存在となっています。

 これほどまでに生成AIが注目される理由は、業績が向上し競争優位を獲得している企業が多いためと考えられます。例えばBMWは製造ラインの最適化に使用し、エアバスは軽量構造設計に活用しています。石川県の病院では退院時の要約文書を生成AIが自動作成し、業務時間削減につなげています。導入企業は業績向上や収益成長を遂げており、生成AIを活用している企業とそうでない企業で、明確な差が生まれ始めています。

 活用にはリスクもあります。セキュリティ面では機密情報の漏洩、倫理・ガバナンス面では著作権侵害や個人情報・プライバシー侵害、品質面では誤回答するといった課題があります。しかし大切なことはリスクがあるから活用しないのではなく、リスク管理をしながら積極的に使うという発想で、リスク管理は安心して生成AIを導入するための仕組みと言えます。日本は慎重になりがちな国民性もあり生成AIの活用が遅れていましたが、5月にリスク対応を盛り込んだAI法が成立しました。世界を見ると、アメリカは過度な規制を避けて開発と競争優先、EUは人権・安全性重視の規制強化、中国は政府主導の管理と技術開発の進展、日本は民間主導かつ法令遵守型の慎重な推進という構図です。

 今こそ、日本の企業や組織は生成AIをどう活用するか考えなくてはいけません。まずは生成AIによってもたらされる利益やリスクを分析し、体現したい価値がどこにあるかのゴールを設定する必要があります。その上でマネジメントシステムをデザインし、運用・評価・改善を繰り返しましょう。 

 AIガバナンスは企業理念やパーパスと照らし合わせて考えることがポイントで、人材育成や利用ルールの決定も重要事項です。生成AIの導入を避けられない時代となりました。リスクをコントロールしながら活用し、これまでにない成長のチャンスをつかみましょう。

【 問い合わせ先 】
東京海上日動火災保険(株)富山支店
TEL.076-433-1560