クリスマスシーズンが近づいてきました。特別な時間を過ごしたい人は多いはず。そんな時に選ばれるのは、コース料理。巻頭特集は、提供する新店やリニューアル店に焦点を当てます。ゼロニイはリニューアルして1周年。ゲストも迎え、より楽しめる方法を聞きました。コース料理の今を、味わいに行きましょう。(情報は取材時の内容です)

コースって、対話ですね

 元料理人の経験を生かし、情報番組の料理コーナーでも活躍する俳優、池田航さん(南砺市出身)。「コース料理は、シェフとのコミュニケーション」と話す池田さんが、高岡市にことしオープンした話題のフレンチを訪れました。独創的な料理を味わいながら語ったコースの楽しみ方や作り手として注目した点とは……。料理男子として人気の池田さんの視点は、皆さんの参考になるはず!

 

 池田さんは高岡龍谷高校調理科の出身。調理師免許を持ち、芸能界に入る前、東京のフランス料理店の料理人としてコースの調理に関わっていた。今回訪れたのは、4月にオープンした高岡市のイノベーティブフレンチ「s. r-trois」(エス エール トロワ)。ミシュラン一つ星店で研さんし、在ジブチ共和国日本国大使館と在パキスタン日本国大使館の公邸料理長をそれぞれ務めた村田晴児さん(43)がオーナーシェフを務める。市内を中心に北陸の食材にこだわり、ランチとディナーともに独自性のあるコースのみ提供する。

一品目が店を映す

「カリフラワーのブルーテ 岩瀬浜産 平田海老」 カリフラワーは口当たりのいいソース状に仕上げた

 「コース料理は一皿目が一番気になる。一皿目をどのくらいの分量で出してくるのか、どんな素材を強調させるのか。店の色が分かるものだと思うんですよね」と池田さん。一品目の「カリフラワーのブルーテ 岩瀬浜産 平田海老」をじっと見つめる。「ビロードのように滑らか」という意味のカリフラワーのソースとシロエビを合わせたメニューだ。スプーンですくい、口に運ぶと「おいしい!」と目を輝かせた。フレンチでなじみのある食材のカリフラワーと、富山湾の宝石の相性は合うようだ。「一皿目って、だから、わくわくするんですよね」。フレンチと県内食材の融合が楽しめるコースだと実感し、次の料理が待ち遠しくてたまらない様子だ。

「『西家 柚子胡椒』風味の新湊産カンパチ ツルムラサキのクーリ ソースヴェール」 プロにしか卸さない調味料や高岡市産ツルムラサキのソースがカンパチを引き立てる
「新湊産 紅ズワイガニをビスク仕立てに ヴィエノワーズで覆った ブラックのジョー」 ベニズワイガニの甘さとほのかな苦みに着目。似たニュアンスのカボチャの一種、ブラックのジョーと合わせた

 「新湊産 紅ズワイガニをビスク仕立てに ヴィエノワーズで覆った ブラックのジョー」が置かれると、ありがたそうに見入っている。「ビスクって、作るのめっちゃ大変なんですよね。香味野菜を切って炒めたり、(甲殻類の)殻をしっかりカリカリになるまでローストしたり……」。料理人として働いてきたからこそ、提供されるメニューに掛かる手間や工夫が分かる。

「能登牡蠣のポッシェ ソースコンコンブル 蕪と柚子の香り」 ゆでたカキにキュウリのソースをあしらった
「岩瀬浜産 鉄砲サワラの備長炭炙り 醗酵バターで香り付けしたソース・ノイリープラ」 サワラは目を閉じて食べると肉と間違えてしまいそうな弾力

 一番うなったのは、「岩瀬浜産 鉄砲サワラの備長炭炙(あぶ)り 醗酵バターで香り付けしたソース・ノイリープラ」。サワラが肉のようなもっちりとした食感で、目を見開いて驚く。「サワラとは思えない食感! いっぱい試作して完成度を高めたんだろうな」と思いやる。

フレンチってアート

「七谷鴨のロティ 氷見産マコモ筍の備長炭焼き」 香り高い京都のカモはフランス産にも引けを取らない
「ヘーゼルナッツ風味の柿 収穫期のドメーヌボーの畑から採ったぶどうのレディクション」 南砺市のワイナリー「ドメーヌ・ボー」のブドウをチョイス

 繊細で見とれてしまう盛り付けの料理が、順番にテーブルを彩っていく。味わいながら「僕、絵を描くの、好きなんですよね」と一言。絵の話、今してましたっけ? 「フレンチって食べるのがもったいなくなっちゃうくらい、美しい。アートだ」。絵画とフレンチは、美の創造という点で共通する。そういう意味で両方、自身の好みに当てはまるという。情報番組「ZIP!」のコーナーで、日々鮮やかな料理を作っていることもあってか、スマートフォンで料理をパシャ。「盛り付けにも、シェフのこだわりが詰まっています。後で見返します」。料理の腕磨きに余念なしだ。

行く意味を伝えるのも◎

「能登栗とショコラノワール パープルスイート・茗荷・秋麗梨のソルベ オレンジのコンフィチュールをアクセントに」 ソルベは秋冬のデザートとして重すぎないようにするため、ミョウガで後味を軽くした

 コースは進み、最後のデザートが運ばれてきた。「ソルベにミョウガ入れるの?! なんで入れようと思ったんですか」。メニューを説明する村田さんに尋ねる。シェフとコミュニケーションを取るのが、コース料理をより楽しめるポイントという。「料理へのこだわりを聞くことができて、わくわくする。『きょうは記念日なんだ』とか、行く意味を伝えるのもいいですよ。料理人も、どんな料理で喜んでもらおうか意識が変わりますから」。

「カフェ・プティフール」 ねっとりとした生地のカヌレとマカロン、フィナンシェ
村田さん(右)から料理の説明を聞く池田さん

 食べ終えた池田さんは、村田さんに感謝を伝える。大阪府出身の村田さんが高岡市を好きになり、移住して開業してくれたこと。県内の食材をおいしく調理してくれたこと……。「県外出身なのに、こんなに富山を愛してくれて、もううれしいっすよね!」。村田さんも「ありがとう。航さんはきょうから家族やな(笑)」と応え、すっかり仲良しに。池田さんが再来店する日は近そうだ。

Profile
池田航さん
1995年南砺市生まれ。2019年のテレビドラマ「鎧勇騎月兎(がいゆうきげっと)」でデビューし、ドラマ「グランメゾン東京」、「ちむどんどん」、情報番組「ZIP!」内の「旅するエプロン〜30秒のごちそう〜」などに出演。食育インストラクターやタマゴソムリエの資格を持ち、TikTokのフォロワー数は120万人を超える。
 

※料理は「ディナー特別コース」の一例(1人15,400円、要予約)

撮影:南部スタジオ