富山ゆかりの板画家・棟方志功の創作の歩みをたどる「生誕120年 棟方志功展 メイキング・オブ・ムナカタ」が5月21日まで、富山県美術館で開かれています。国内外で高く評価された板画の代表作や貴重な肉筆画、書など、多彩な作品が並んでいます。コノコトの親子鑑賞会には、小1~高3の親子8組が参加。普及課長の麻生恵子さんの解説を聞きながら、代表作の魅力を味わいました。

麻生:皆さんは版画をしたことがありますか?

子どもたち:あります!

麻生:版画にはいろんな手法がありますが、棟方さんは主に木の板を彫って作品を作りました。自分の作品を「版画」ではなく「板画」と表現するのは、戦争で物がない時代に「木の命を頂いて絵にしている」という思いがあったからなんですよ。

子どもたち:へー!

麻生:青森県で生まれた棟方さんは、西洋画の巨匠ゴッホの作品を見て「自分もゴッホになる!」と画家を志します。そのゴッホが影響を受けたのが日本の浮世絵。つまり江戸時代の版画でした。そんなこともあって、棟方さんは版画の道に進みます。

 

■二菩薩釈迦十大弟子
(にぼさつしゃかじゅうだいでし)
1939年、日本民藝館蔵

麻生:この作品は、お釈迦様の10人のお弟子さんと2人の菩薩様が表現されています。何か気づきますか?

子ども:白と黒しかない。

麻生:その通り。あえて色を使わず、紙の白と墨の黒だけで勝負しているのがすごいですね。棟方さんは幼い頃から目が悪かったのですが、版画なら木に顔を近づけて彫り、刷り上げることで大作もできるし、一色だけで力強い作品を生み出すこともできます。そうやって版画の魅力に目覚めていきました。
この作品は、のちに世界でさまざまな賞をとり「世界のムナカタ」と呼ばれるようになる代表作の一つです。
※後期展(4/20~)では、東京国立近代美術館蔵の同名作品(六曲一双屏風)を展示しています。

 

■法林經水焔巻
(ほうりんきょうすいえんかん)

1945年、個人蔵
「法林經水焔巻」(下方)

麻生:さっきの作品と何が違うかな?

子ども:色が付いてる。版画でもない。

麻生:そうですね。これは戦時中、棟方さんが富山県の福光町(現南砺市)に疎開していた時に描いた絵巻物です。福光駅から当時住んでいた家まで、てくてく歩く中で出会った人々や風景を表現した絵日記のような作品なんですよ。

「法林經水焔巻」(部分)

麻生:棟方さんは「バットの産地の福光町なら、版画に使える木がたくさんあるかも」と思って疎開したのですが、戦争の影響で思うように手に入らず、結果的に絵や書を手掛ける機会が多くなりました。福光町には今も、棟方さんの住んでいた家や素晴らしい作品がたくさん残っていまず。ぜひ行ってみてくださいね。

 

■華厳松
(けごんまつ)

1944年、躅飛山光徳寺蔵
 

麻生:こちらは福光町の光徳寺さんから今回特別にお借りしたふすま絵で、表と裏、両方に絵が描かれています。普段はお寺の中に展示されているので、このように両面見られるのは貴重な機会なんですよ。さて、これは何を描いているかな?

子ども:何かが斜めに描かれてる…木?

麻生:そう、これは松の木です。斜めに描いた幹から、枝がぶわっと広がっています。もしかしたら寝転がって見た景色かもしれません。見上げた先には空があって、すごくきれいだった…そんな感動を描いたのかなと想像してみるのも楽しいですね。

「華厳松」の裏面には「稲電・牡丹・芍薬図」が描かれています

 

■歓喜頌
(かんきしょう)
1952年、棟方志功記念館蔵

麻生:この作品は、これまでの版画と何かが違います。分かりますか?

子ども:いっぱい模様がついてる。

麻生:そうだね。これまで見てきた版画は、線を黒く浮き上がらせるために周囲を彫っていましたが、この作品は彫った線がそのまま白く表現されています。実はこれ、失敗が許されないのでとても難しいんです。
棟方さんは戦争を経て木の大切さを知り、一つの版でいかに表現するかを追求します。体の線も模様も全部同じ版に彫って、白と黒だけで作品を作りました。その中で、生き生きとした線を自由自在に生み出せるようになっていったんですよ。

 

■流離抄
(りゅうりしょう)
1953年、棟方志功記念館蔵

子ども:この作品は色が薄いね。

麻生:どうしてだと思う?

子ども:柄がよく見えるように?

麻生:これは裏彩色(うらざいしき)といって、紙の裏側に色を塗った作品なんです。だからこんなにフワッとした優しい色になる。柄や文字が浮き出るように見えますね。美術館の3階では、裏彩色を体験できるワークショップもやっているので、実際に体験してみてくださいね。
※同作は前期展(~4/18)のみ展示。後期展でも「裏彩色」の技法を使った別作品を鑑賞できます。

麻生:鑑賞会はここまでですが、会場には海外で受賞した作品や、横幅13mの大作など、まだまだ素晴らしい作品がたくさんあります。ぜひ親子でゆっくり楽しんでください。

 

【参加者の声】
小6女子
:一人の人なのに、いろんな描き方の作品があってすごいなと思いました。松の木を描いたふすま絵はとても迫力がありました。
高3男子:目が不自由だったにもかかわらず、どの作品も力強く、何を表現したいのかが伝わってきました。心が動かされました。

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「生誕120年 棟方志功展」の招待券を抽選で10名様にプレゼントします。
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