

地域と前進 「さらに挑む」銀行へ
1877年創業の北陸銀行は、広域地銀として富山県をはじめ、各地域とともに歩んできました。昨年4月からは新たな中期経営計画をスタートさせ、地域・顧客の持続的成長を支える取り組みを強化しています。同行の中澤宏頭取と蒲地誠北日本新聞社長が、新経営計画を踏まえた地域金融機関の使命や、地元経済が抱える課題解決への方策などについて語り合いました。
蒲地 昨年6月にほくほくフィナンシャルグループ(FG)社長、北陸銀行頭取に就任されました。この8カ月間を振り返っていかがですか。
中澤 いざその立場になってみると、見える景色は随分違います。責任の重さ、重圧はこれまでと天地に近い差を感じています。ほくほくFG、北陸銀行がどのような方向を目指し、どんな方策を打ち出そうとしているのか、お客様や株主、職員などステークホルダーに見えることが大切です。そうしたビジョンや具体的な取り組みがお客様や地域経済にプラスとなり、職員の働きがいやプライドに結び付き、結果的に資本政策として株主還元する。この循環が理想です。

頭取就任後、全速力で走っています。行内では、改革という視点でトップダウン型のメッセージを発信し、課題の整理・解決をスピード感持って進めています。やりたいこと、考えていることは、たくさんあるんですけどね。対外的には、トップが変わったご挨拶とともに、経営ビジョンを丁寧に説明させていただいています。
ボトムアップが大事
蒲地 トップダウン型の発信に込めた思い、その手応えをお聞かせください。
中澤 大事なのはボトムアップだと思っているんです。何が必要で、何が課題で、何をすべきかについて職員が腹落ちした上で、あるべき姿への戦略・施策が現場から上がってこないと。ある程度突き抜けた、尖った提案を含めてです。そういう意味では、カオス(混沌)を導き出しているといったところでしょうか。私が発するメッセージは、柔軟な思考を導いたり、新しい着眼点を与えたり、ボトムアップへの地ならしです。
蒲地 ボトムアップを促すために、トップダウンで投げ掛ける。穏やかな水面をあえて波立たせて、新しいもの、真に必要なものを生み出すわけですね。そうした舵取りの下、新経営計画の進ちょくはいかがですか。

中澤 計画のタイトルに「Go forward with Our Region」を掲げました。一言でいえば「地域とともに前へ進もう」ということ。我々の強みを生かしながら、環境変化にしっかり対応していく。そのために、コンサルティングやデジタルトランスフォーメーション(DX)、環境分野など6つの重点戦略を設定し、それぞれを掘り下げる形で挑戦しています。
計画は想定より概ね速いペースで進み、成果も出ています。掲げた理念も浸透してきています。この計画はお客様からの支持をいただいていると受け止めています。
多様なコンサル推進
蒲地 近年、地銀がコンサルティング機能の強化に乗り出しています。新経営計画の柱としたコンサル業務は成果が出ているようですね。
中澤 コンサルティングのニーズは年々増え、今年度の関連収益は過去最高を見込んでいます。法人向けは当行単独の各種コンサルティングに加え、テーマに応じて提携業者とも連携することで、多様化するお客様の幅広いニーズにお応えすることができる体制を構築しています。
コンサルにはいろいろな分野がありますが、例えば事業承継は地元企業において大きな課題です。次世代に事業を引き継ぐことは並大抵のことではなく、オーナー企業でも同族間での事業承継に悩むケースが結構あります。そうした企業課題に対し、私たちは経営人材の育成や組織体制の整備など多角的にアプローチし支援しています。時間のかかる話ですが、結果として事業が継続され、さらに広がっていくのであれば、地域経済にとって望ましいことです。事業承継は一例ですが、法人・個人のライフステージに見合ったコンサルティングによって、最適なサービスを提供していきます。

DXと人的資本経営
蒲地 DXについて伺います。県内企業もさまざまな課題を抱えています。
中澤 地方で労働人口が減少する中、インボイスなど法令対応をきっかけに業務を効率化したいという相談が増えています。対応策の一つがDXになるわけで、積極的に情報提供やサポートを進めています。もちろん日進月歩の分野ですし、金融サービスと情報技術を結び付けたフィンテックやキャッシュレス決済など求められる内容も変化しています。そのような状況も踏まえ、法人・個人のお客様の利便性が向上するよう、絶えず新しい知見を習得してサービスの幅を広げていきます。
行内では、DXを活用してバックオフィス業務を軽量化しています。銀行業務にはお客様との関係強化など対面でなければという分野があり、対面と非対面をうまく調和させていきます。DXと向き合う際、最も大事なのは、デジタル化によって生み出された人的資本をどう活用するか、という視点です。銀行が新しいことに挑戦していくためには専門知識を持った人材育成が欠かせません。DXとともに、そうした人的資本経営を高いレベルで展開していきたいと考えます。
蒲地 DXの着地点は新たなビジネスモデルの創造とも言われ、余剰ではなく、余裕人員ととらえた戦略が重要です。そのポイントとなる人材育成ですが、頭取就任時から強調されていました。
中澤 これまでもさまざまな研修制度で育成に努め、効果も出ているのですが、さらなる人材の高度化に向け、職員の前向きな姿勢を組織的に応援するようなフレームを導入します。営業店を異動させつつ伸ばしていく従来の手法はいささか古い。職員の意欲や適性を生かした人材育成を進めなければならないと考えます。それが「よし、やってみたい」と手が挙がるような組織風土、そしてウェルビーイングの実現につながっていくと思っています。
蒲地 富山駅北での本部ビル新築計画にも人材活用の観点があるようですね。
中澤 富山市内に点在している本部・グループ会社を集約することで、機動的な対応力やシナジー効果を高め、グループ全体の人材のレベルアップにつなげるのが狙いの一つです。駅に近いロケーションですから、北陸新幹線延伸も見据え、より多様な人材が活躍できるようにしたい。ビルには地域共存を象徴する機能を持たせられないかとも考えますが、現在検討中です。

蒲地 地域経済発展に向け、北陸銀行、ほくほくFGの一層の飛躍に期待しています。
中澤 銀行は今も昔も地域経済にとって、最も身近で最も信頼できる相談相手です。取り巻く環境は大きく変化していますが、当たり前のことをきちんと実践しつつ、「さらに挑む銀行」になることが必要です。ほくほくFGの総合力、シナジー効果を発揮して、さらに進化しながら、地域やお客様に貢献していきたいと思っています。
(3月1日紙面掲載)
あの頃の私
若いころの一番の思い出は、最初に配属された越前町支店(富山)での日々です。まだ銀行員としての自覚が足りなかった中で、厳しく鍛えられましたから。
外に出て、できるだけ人と接しろという叱咤激励でした。そして、お客様が望むことを常に考えろ、しかも徹底的に突き抜けて考えろ、と指導されました。さすがは先輩、手を抜くと見抜かれるんです。
夢中で走り続けていると、少しずつ人脈が広がっていき、取引先からの信頼も感じるようになりました。高校時代は野球部で甲子園を目指したのですが、当時身についた忍耐力とか、前向きに努力し続けることが生かされたかもしれません。
若手時代、失敗はたくさんありましたが、仕事は面白かった。あらためて、当時の先輩からの指導と、お客様に育んでいただいた経験が、私の仕事に向き合う姿勢をつくってくれたと感じます。仕事にのめり込むくせは今も直らないんですけどね。
よく営業経験が長いと言われますが、都市部の営業店でバブル崩壊後の状況も見てきましたし、審査関係の仕事も10年余りやりました。振り返って、いろいろな経験をさせてもらったことに感謝しています。






北日本新聞は3月に新たな総合情報サイトwebunプラスをスタートし、2024年には創刊140周年を迎えます。本対談は、その記念として展開するシリーズです。
企画・制作/北日本新聞社メディアビジネス局