消えかけていた明かりが再びともり、町を照らしている。店主の高齢化などから昨年11月、惜しまれつつも75年の営業に幕を下ろした高岡市大坪町の銭湯「日の出湯」。風前のともしびとなっていた地域のよりどころは、とある若者の手に託された。
「いらっしゃい、どうも!」。声を弾ませ、番台に座るのは高岡市在住の山森湧斗さん(30)。店名を「湧ノ湯(わくのゆ)」に改め、昨年12月から営む。「毎日充実感がある。幸せな仕事です」と笑顔を見せる。実は週1度は銭湯に通っている記者が、山森さんの“熱い思い”に迫った。(渡辺翔)

銭湯との出合い
山森さんは新潟県長岡市出身で、大学進学を機に上京。卒業後は東京に残り、職を転々としながら暮らしていた。「別に銭湯に興味はなかった」と当時を振り返る。
運命を変える出合いは25歳のとき。住んでいたアパートの近くにある小さな老舗の銭湯を偶然見つけた。「何も考えずにふらっと入ったんです。そしたらもう感動しちゃって」。広い湯船で足を伸ばしながらリラックスできる。昭和レトロな雰囲気を楽しめる上に値段も安い。これまで関心がなかった分、衝撃を受けたそうだ。

「町の銭湯」に魅了された山森さんは、都内各地の銭湯を毎日のように巡り始めた。次第に温浴業界そのものに興味を持ち、後継者不足や諸費用の高騰などから廃業する銭湯が増えている事実を知った。「率直にもったいないなと。こんな素敵な文化が廃れつつあるとは」。山森さんの言葉に力がこもる。
この現状を変えたい-。そう強く感じた山森さんは「自分が経営側に回って、業界全体を盛り上げていければ」と、温浴業界に入ることを決意した。
富山に来たきっかけ
たった1人で業界の門をたたいた山森さん。自分の店を持つ前にノウハウを学ぼうと、最初は東京・北千住の銭湯で働いていた。
縁もゆかりもなかった富山に移ったきっかけは、富山市中島の銭湯「立山鉱泉」の店主、中平昇吾さんの存在を知ったことだ。中平さんは後継者不足に悩む立山鉱泉の運営を2019年に引き継いだ。幅広い世代が楽しめる銭湯を目指し、現在も奮闘中だ。山森さんはそのひたむきな姿をSNSで見かけ、感銘を受けた。「ゼロから銭湯を始めるより、後継者に悩む地方の銭湯に携わる方が業界のためになるのでは」と思うようになり、北千住の銭湯を辞めて中平さんに連絡した。「うちは手一杯だから」と紹介されたのが、県内で銭湯チェーン「ひかりランド」を経営する坂田信二さんだった。
坂田さんと意気投合した山森さんは23年10月に富山に移住。ひかりランド系列の大門の湯(射水市)や南星の湯(高岡市)で働いた。「裏の設備やボイラーの仕組みまで多くのことを学びました。坂田さんには本当に感謝しています」と語る。
「日の出湯」を引き継ぐ
銭湯愛あふれる山森さんは、県内でも各地の銭湯を巡った。日の出湯もその一つ。先代店主の山吉久子さんとの出会いを「すごく優しい人でした。駅までの道を尋ねたら、営業中なのに近くまで案内してくれたんです」と振り返る。
日の出湯の閉店を決めた山吉さんは、地域住民や常連客のためにどうにか店を守ろうと、後継者を探していた。そのことを知った坂田さんを介し、山森さんに白羽の矢が立った。「山吉さんの思いをむげにはできないと強く感じました」と山森さん。店を引き渡す日、山吉さんは「体に気をつけて頑張ってね」と山森さんを励ましたという。まるで湯のように温かな裏話に、記者も思わず感嘆した。
新たな仲間と共に
昨年12月、店は「湧ノ湯」として再出発。
