
協和製作所 社長 早川勇さん(写真左) メンドーザ・ユヘンニョⅢ・ブガヨングさん(右)
「最初は日本の生活も仕事も全部難しかった。でも少しずつ慣れた。鋳造の仕事は面白い」。 鋳鉄部品メーカーの協和製作所(高岡市四日市)で働くフィリピン出身のメンドーザ・ユヘンニョⅢ・ブガヨングさん(36)が、日本語で話す。2016年に技能実習生として来日して10年目。24年には国の技能検定で上級技能者レベルとされる鋳造技能士1級に、県内の外国人として初めて合格し、現在は特定技能1号(※)の在留資格で働いている。
同社は、高岡の伝統産業である鋳物の技術で、建設機械や産業機械向けの部品を製造する。 ICT(情報通信技術)や最先端の自動化設備を導入しているが、鉄の成分調整や砂型への流し込みには熟練工の技と経験が欠かせない。早川社長は2001年、近隣の事業所と技能実習生を受け入れる協同組合を設立したのをきっかけに、外国人の雇用を始めた。当初は、それほど人手不足感はなかったが、欠員が出た職場に補充していくうちに、現在は実習生が23人、特定技能が13人に。「製造現場の3分の1以上が外国人となり、彼らがいなかったら仕事ができない状況」と話す。

鋳型に溶けた鉄を流し込むメンドーザさん
外国人への指導は、3日間の安全教育からスタートする。まだ日本語が拙い実習生にビデオやテキストを使って注意すべき点を伝え、各職場へ。その後も、指導役が節目ごとに行われる技能検定試験に合格できるようサポートしていく。メンドーザさんも実習生として最長の5年間働いた後、特定技能1号に移行。2号になれば在留期間を延ばし、家族を呼び寄せることができることから、2号に必要な鋳造技能士1級への挑戦を決めた。学科試験は日本語のみで行われるため、会社は過去の問題を集め、漢字にローマ字で読み方を記し、英訳を付けた手作りテキストを作成。メンドーザさんは必死に勉強し、合格を手にした。この結果が他の外国人たちの励みとなり、今年新たに2人が鋳造技能士1級に合格した。早川社長は「資格を持った技術者が増えることは、会社にとっても大きなメリットになる」と喜ぶ。

「チャレンジができてうれしい」と話すメンドーザさん。早川社長からの信頼も厚い。
20年以上、たくさんの外国人たちと接してきて早川社長が感じているのは、コミュニケーションの大切さだ。「こちらの思いがみんなに伝わって初めて、目的が達成できる。不良品ができるのは、伝わっていないから」。親睦を深めるため、社員旅行や花見、月見など多彩な行事を企画し、職場ごとの懇親会にも補助を出す。日々のやりとりの中で悩みを打ち明けられれば話を聞き、体調が悪いと言えば病院に連れて行く。「日本人も外国人も同じ。自分の子どもと思って接していれば、応えてくれて、技術者として育っていく」と力強く話す。
今、メンドーザさんは会社に勧められ、日本語検定に向けて勉強中だ。早川社長は「私たちの思いをもっと理解してほしいし、彼の意見も聞きたい。そしていずれは外国人を指導する立場になってもらいたいから」と期待を寄せる。社長のそんな言葉に「またチャンスをもらった。期待され、うれしい」とメンドーザさん。離れて暮らす4人の子どもと一緒に高岡で暮らす日を夢見て、努力を積み重ねている。
県内の外国人労働者過去最多を更新
コロナ明け急増 10年前の2・4倍に
県内で働く外国人労働者は、年々増加している。コロナ禍は出入国が厳しくなった影響で減少した時期もあったが、22年から再び増え始め、24年10月末時点で前年比11.2%増の1万4930人となり過去最高を更新。10年前の2・4倍となった。 国籍別ではベトナムが最も多い4631人で全体の3割を占め、続くインドネシアは前年比1・5倍の2202人。中国が2139人、フィリピンが2029人、ブラジルが1282人だった。働いている事業所は、ものづくりが盛んな富山の産業構造を反映し、製造業が最多の6552人、サービス業、卸売業・小売業、建設業が続いた。

小規模事業所の人手不足補う
雇用する事業所数も、前年比8・9%増の2499カ所となり、過去最多を更新した。従業員数が30人未満の小規模な事業所が、全体の6割を占めている。富山労働局は「日本の若い人を雇用したくても確保できず、大企業のように機械化で人材不足を補うことも難しい小規模な事業所が、足りない労働力を外国人に担ってもらっているケースが多い」とみている。
便利なツールで理解深めて
技能実習制度から特定技能に移行し、企業 の大きな戦力となって働く外国人が増えている 一方、全国では技能実習生の失踪などトラブルも相次いでいる。同局職業対策課の担当者は「まずは正しい賃金、適正な労働環境で働いてもらうことが大切。そして便利なツールなども利用してコミュニケーションをとり、互いに理解し合ってほしい」と呼び掛けている。
例えば厚生労働省では雇用管理に役立つ多言語用語集をサイトで公開している。「安全衛生」「通勤手当」など、仕事で使用するさまざまな言葉を「やさしい日本語」のほか、ベトナム語、インドネシア語など15言語に翻訳し、伝え方の例文も付けている。県内のハローワークでは、事業所を訪問してこれらのツールを紹介しながら相談に応じているほか、富山労働局では2026年1月27日、企業向けの外国人雇用管理セミナーを県民共生センターサンフォルテで開催する。問い合わせは富山労働局職業対策課、電話 076-432-2793。
12月10日は人権デー
第2次世界大戦が終わって間もない1948(昭和23)年 12月10日、国連総会で「世界人権宣言」が採択された。多くの人命が奪われ、人権が踏みにじられた二つの世界大戦を経験し、この悲劇を二度と繰り返さないという反省に立ち、人権を守ることは世界平和につながるという考えが基になっている。前文と30の条文には基本的人権尊重の原則が記され、世界各国の憲法や法律に取り入れられている。
国連は宣言から2年後、12月10日を「人権デー」に定めた。日本でも12月4~10日を人権週間とし、さまざまな啓発イベントを行っている。
ビジネスの分野でも人権意識は高まっている。社内の差別やハラスメントを防止する規定を設けるのはもちろん、行政や店舗などでは、来庁者や来客からのカスタマーハラスメントへの対策が進む。スーパーやドラッグストアでは多様性を尊重し、従業員の頭髪やアクセサリー等の身だしなみ基準を見直す動きもある。県社会保険労務士会では、企業の人権尊重の取り組みを支援する「ビジネスと人権(BHR)」推進社労士の育成に向けて、研修会の開催などに力を入れている。
わたしたちは、互いに認め合いながら
自分らしく輝ける社会を応援しています
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DEI(ディー・イー・アイ)は、多様性(ダイバーシティ)、公平性(エクイティ)、包括性(インクルージョン)を意味する言葉です。性別、年齢、国籍、出身、性的指向、障害の有無…人と人との間に横たわるさまざまな違い。DEIは、これらを互いに認め合い、それぞれの能力を最大限に発揮できる環境づくりを進める考え方です。北日本新聞社広告キャンペーン「みんなでつなぐDEI」では、誰もが自分らしく輝ける社会について考えます。
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