江戸時代から続く老舗酒蔵、皇国晴酒造(黒部市生地)の岩瀬由香里さん(48)は、県内初、そして唯一の女性杜氏(とうじ)だ。2022年に杜氏デビューし、24年に仕込んだ主力商品「幻の瀧」は金沢国税局酒類鑑評会で吟醸の部優等賞に輝いた。「かつては“女人禁制” “見て盗め”と言われた世界。でも今は違う。いろんな人に教わり、支えられて酒づくりができている」と話す。

 岩瀬さんは和歌山県出身。子どものころからパン屋に憧れ、発酵工学を学べる広島大学へ進学した。4年生の時、国の醸造研究所(現酒類総合研究所)で麹を研究したことで、夢は杜氏へと変わり、卒業後は地元の酒蔵に就職。その後、研究所で出会った皇国晴酒造の現社長、新吾さんと結婚した。それから20年余り、子育てと家事に追われる日々だったが、子育てが落ち着いたことと前任者の退社をきっかけに、夢だった杜氏の道を歩み始めることになった。

 最初は不安しかなかった。いにしえの杜氏たちは、技を外へ漏らすことは絶対になかったというが、岩瀬さんが県内外の酒蔵を訪ねると、みな親切に教えてくれた。そして新たな知識を学ぶため積極的に蔵元同士で情報交換していることも分かってきた。「おいしいお酒をつくりたい。その思いを持つ人たちがつながって、業界を少しずつ変えていったのだと思う」。もちろん新吾さんもその一人。「杜氏、やってみたら」と夫に言われるまで、まさか再び、夢を追う日がくるとは思ってもいなかった。

 蔵人たちと酒づくりの日々を送る岩瀬さん。「女には難しい」とされた力仕事も、台車を使ったり、重い米袋は小分けにしたり、昔からのやり方を少しずつ変えることで乗り越えてきた。「杜氏は、オーケストラの指揮者のよう。それぞれの得意を生かし、苦手なことはみんなでフォローする。そうやって楽しんで仕事できる環境を整えることが、おいしい酒づくりにつながる」と話す。

 現実には、性別など個人の資質とは無関係の要因で制限を受けることがある。「そのことで何かを躊躇(ちゅうちょ)している人がいるなら、まずは一歩踏み出してほしい。それがもし良い結果にならなければ、今はそのタイミングじゃなかっただけ。チャレンジできる時はきっとくる」。自身の人生を振り返り、岩瀬さんはそう信じている。
 



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