仕事が忙しく遅い時間に帰宅した夜は、気持ちの切り替えが難しい。そんな時は「アクションやバイオレンス作品を観て、スカッとする」という儀式的なことを行う。今回は、世界的に有名なバイオレンス映画の監督作品を観る。
「Broken Rage」は、殺し屋が生きる裏社会を舞台にした、映画監督・北野武の最新作だ。
依頼を受けた標的を確実に仕留める殺し屋・ねずみは、殺人の容疑で逮捕される。警察は「罪を見逃す代わりに協力しろ」と、彼を覆面捜査官として麻薬取引の潜入捜査に送り込む。殺し屋として卓越した能力を発揮するねずみだが、警察とヤクザの板挟みになり生き残ることはできるのか。前半はシリアスなクライムアクション、後半は同じ物語をコメディタッチのパロディとして展開する。

ねずみはある人物から定期的に殺人を請け負っている。いつもの喫茶店に行き、決まった席に座ってコーヒーを注文すると、マスターが依頼書を渡す。標的がどんな人間でも、躊躇せず殺していく。仕事が終われば家に帰り、台所で依頼書を焼き払う。前半は「寡黙でクールな殺し屋」ねずみが淡々と描かれる。ところが後半は、ねずみがある席に座ると、椅子が大破し転げ落ちる(「チーン!」という効果音付き)。家に戻ろうと階段を上ればつまずいて、「年配の男性」として面白おかしく描かれる。
喜劇ではなくコントのような展開に、昔テレビで放送されていた「ビートたけし」の番組を思い出す。小さい頃はそのシュールさとブラックジョーク、体当たり芸を楽しむことができた。だが、ずいぶん年を取った彼が当時と変わらないお笑いをやることに、私は痛々しさを感じてしまった。正直にいえば、後半は全く面白さがわからなかった。
前半は壮大なボケで、後半はそれに対するツッコミなんだろうか?「俺はまだまだお笑いもやれる」ということを証明したかった?スカッとするどころか、脳内は「?」でいっぱいになってしまった。
考え抜いて出した私なりの答えは「これまでの作品ではひとさじ程度だったお笑いの要素を、今作で大きく増やした」と「私のお笑い感度も老化した」の二つだ。ピアニスト/作曲家の清塚信也氏が担当した劇伴がとても良かったことも、付け加えておこう。