この冬、ひさしぶりに家族で旅行をした。母と妹と、飲んで食べてしゃべり続けていたら「女3人寄ればかしましい」ということわざを思い出す。しばらく旅の余韻に浸っていたせいか「かしましい女たち」が出てくる物語が観たくなり、今作を観始めた。
「阿修羅のごとく」は、1979年の東京を舞台に、生き方も性格も異なる4姉妹をはじめとする一見平穏な家族を描いたホームドラマ。昭和の名作ドラマを多く手がけた脚本家・向田邦子の代表作を、映画監督・是枝裕和がリメイクした。
夫を亡くし、生け花の師匠として生計を立てる長女・綱子。次女・巻子は、夫と子供たちの世話を甲斐甲斐しく行う専業主婦だ。生真面目で恋愛に奥手な三女・滝子は、図書館で働いている。喫茶店で働く奔放な四女・咲子は、内緒でボクサーの恋人と同棲していた。ある日、年老いた父に愛人がいることを知った姉妹は、母に知られまいと画策を練る。協力し合う4人だが、実は互いに隠したい事情を抱えていた。
綱子は、花の生け込みを行う料亭の主人と、縁を切りたいと思いながらも不倫関係を続けている。夫の浮気を疑い、不安に苛まれた巻子は不始末をおこす。初めて恋人ができた滝子は、肉体関係を持つことに抵抗があった。結婚し子どもを産んだ咲子だが、ボクサーである夫との生活に疲弊している。4人の「家族/男性/性」の価値観は大きく異なり、それぞれ八つ当たりのような小競り合いを起こしてしまう。

ふと、ある曲が頭に浮かんだ。ハナレグミの「家族の風景」にはこんな歌詞がある。「友達のようでいて 他人のように遠い/何を見つめてきて 何と別れたんだろう/語ることもなく そっと笑うんだよ」。
日本に限っていえば、家族には家族としての一面しか見せていない家庭がほとんどだろう。とりわけ恋愛や性は、話すことをためらう繊細な話題ではないだろうか。自分に置き換え考えてみると、やはり家族の外の顔は見たいような見たくないような。
とはいえ、姉妹が飲み食いしながら喋って笑い合うシーンはとても楽しかった。見覚えのある光景につい、我が家を重ねてしまう。女手ひとつで子を育てた綱子と家でずっと喋っている巻子はお母さん。滝子の融通が利かないところは私。世渡り上手な咲子と妹はそっくりだ。ああ、かしましい。