エントランスを彩るのは立山町の和紙職人・川原隆邦さんの革新的な作品だ。
土や花びらなど各地の素材を和紙と融合させ、伝統工芸の固定観念を打ち破る新たな表現に挑む。
4月13日の万博開幕を前に意気込みを聞いた。(聞き手・田尻秀幸、撮影・竹田泰子)
——材料や自然と対話しながら、自分でも想定していないような作品を作ろうとしているんですね。

偶発性は大事にしています。でも、明らかに失敗だと思うものもありますけどね。だから小さいサンプルから始めて、少しずつスケールアップしていく。万博という大舞台で挑戦すると宣言してしまったのでプレッシャーもありますが、それが良い緊張
感になっています。開幕ギリギリどころか、会期中も作り続けることになるんですが(笑)。
——万博では「コウゾの森」プロジェクトも担当されていますね?
熊本に加藤清正ゆかりのコウゾの森があり、その苗木を生産者から譲り受けました。それを「清正楮」と名付けて、工房で大切に育ててきたんですよ。なんで清正かというと、男なら武将が好きでしょう。ロマンでしょう(笑)。それを「ポップアップステージ北」という広場に約120本植えます。会期中に2〜3㍍くらいになると思います。
会場は人工島ですよね。そこに コウゾを植えることで、和紙文化を固定的な地域の枠から解放できるかなという思いもあります。このコウゾの使い方は今後、考えていきたいと思います。

勘違いされがちなんですが、今回お金を全くもらってないんですよ。制作費も移動費も材料費も万博側からもらっていない。だから結構自由なんです。やりたいようにやれています。
——万博に対して自由だし、伝統工芸というジャンルの中でも自由に振る舞っている。

結局、単に形を守ることじゃなくて、その本質やイズムを継承していくことが大事
だと思ってるんです。伝統工芸という枠組みには少し問題があると感じています。100年以上同じ場所で、100年以上同じ道具や同じ作り方であることが重要視されている。ハードを肯定しちゃって、イズムを無視していることに問題がある。
でも、大事なのはイズムと技術でしょう。伝統工芸の第一人者たちは、本来とても自由で、革新的な人たちだったと思いますよ。最初は皆、やりやすい場所で自由な発想で技を磨いていたのに、いつしか凝り固まっちゃった。伝統工芸の枠にとらわれすぎると、新しい人が増えない。次の世代へつながりません。もっと自由に、多彩な素材とスタイルでやれるという可能性を示すことが大切なんです。
——万博の開催自体に批判的な声が根強いですが、どう受け止めていますか。

人間、何か盛り上がるものがないとダメなんですよ。地域の祭りだって「コスパ悪い」と言ったらやれないじゃないですか。今はリアルの場が貴重になっている。確かにiPadでキリンやゾウを見ることができるかもしれないけれど、動物園に実際に行って「思ったよりもデカい」「こんなに臭いのか」って思うことが大切なのは分かりきった話です。万博は世界の文化や技術が向こうから集まってくる。