命日が近いこともあり、冬になると亡くなった父を思い出す機会が増える。父の死の直後は、喪失感を埋めるように仕事に没頭した。毎晩すっかり暗くなった雪道を泣きながら歩いた。寒い夜は雪を踏みしめて歩いた音がよみがえる。
今回紹介する「セヴェランス」は、ある企業を舞台に、究極の「ワーク・ライフ・バランス」を問うSFサイコスリラーだ。
マークは、「セヴェランス」という記憶分離手術を受け、ルーモン社で働いている。仕事と私生活の記憶が切り離された彼は、オフィスで働く自分(インニー)と、社外の自分(アウティ)の2つの人格を生きていた。

ある日、アウティのマークの前に元同僚と名乗る男が現れる。辞職して記憶の再統合を行った彼は、従業員に「機密保持のため」とうたい手術を行うルーモン社に疑いを持っていた。彼に触発されたマークは、オフィスの中と外の両方から会社の裏に潜む謎を解き明かしていく。
ルーモン社の同僚や業務内容を知らず、働いている記憶のないマークに、知人女性が「愛する人のことを毎日8時間、生涯忘れてしまうのは混乱しない?」と質問する。彼は「忘れたくてやっている人もいる」と俯きがちに話す。
インニーのマークは、明るい性格の中間管理職だ。職場に馴染めない新人をフォローし、部署と上層部の潤滑油のような役回りを引き受けている。一方、アウティのマークは暗い顔をして孤独な生活を送り、妹夫婦から心配されている。彼は最愛の妻の死を受け入れることができず、悲しみから逃れたいあまり「セヴェランス」を受け、働いていたのだ。
第2話のエンディングでイギリスのバンド、アイ・モンスターの「Day-
dream in Blue」が流れる。「花に囲まれて眠りにつく/素晴らしい日の数時間に白昼夢/君の夢を見る」という詞だが、マークは妻の夢を見ることさえ苦痛なのだろう。
人は泣いたり落ち込んだりを繰り返しながら、きちんと自分の悲しみに向き合うのだ。少しずつ大切な人のいない生活に慣れていく。私が父の死を受け入れることができたのは、あるアーティストがライブで私たちファンに語りかけた言葉のおかげだ。「死は別に悪いことではない。当たり前のこと。死んだことより、いなくなったことより、生きていたということ、存在していたことを大事にしてください」
画面の向こうで悲観するマークに、私はこの言葉を贈りたいと思う。