音楽や映画など、10代の頃からアメリカのポップカルチャーが好きだ。そんな私にとって、2024年の大統領選挙は興味深い出来事だった。ハリス氏支持を大勢のアーティストや俳優が表明し、対抗するトランプ氏の過激な発言や言動を耳にするにつれ「さすがに再選はないだろう」と思っていた。本作を観るまでは。

 「ザ・ペンギン」は、「バットマン」に登場する、悪役を主人公にしたクライムドラマ。政治と悪の結び付きにより腐敗し、大洪水に見舞われたゴッサム・シティを舞台に、「ペンギン」ことオズワルド・コブルポットがのし上がろうとする姿を描く。

 犯罪組織のボスと裏で繋がっていた市長が殺され、混乱する街でオズワルド(通称“オズ”)は権力を求め、ボスの息子を殺害する。死体の隠蔽中にビクターという少年と出会い、彼を右腕として引き込む。

イラスト:kumiko yamaguchi

 第3話、逃げようと企てたビクターに、オズは銃を向ける。そして「ここ(街)にあるのは生存競争だけ。おかしいのはこの世の中だ。誰もおまえらのことなど気にしちゃいない」と言い放つ。ゴッサム・シティに暮らす人のほとんどが、洪水により家族や住む家、全てを失ったままだ。悪事の片棒を担がせてはいるが、オズは人々に仕事を用意し対価を払う。荒廃した街に電気を通すため、政治家を脅すこともいとわない。ビクターは結局、オズの元へと戻っていく。

 流れるボブ・モーゼスの「Broken Belief」には、こんな歌詞がある。「一握りの連中にみんなが牛耳られている/金持ちはおどけているだけ/俺達はおまえの壊れた価値観の犠牲者だ」。

 本作は大統領選が佳境に入った9月後半から毎週公開された。過激な発言や言動が多くとも、市井の人々に寄り添い行動した(ように振舞う)オズが、トランプ氏と重なって見える。「もしかして…」と思ったことは、数週間後に現実となった。

 偶然とはいえ、予見したような内容に一瞬「やっぱりアメリカのポップカルチャーって面白いな」と思った自分を省みる。そして「この国の善悪の判断や政治家の支持のあり方だって、アメリカに近づいていないか?」と怖くなっている。

DJ CHIGON 富山市在住。ロックDJパーティ「LOVEBUZZ」のDJ。インディーロックを中心にプレイしている。