さてと、そろそろ上まぶたと下まぶたを離していろんなものを見るとするか。こうしてわたしは朝の布団で目を開く。

 寝起きの目はぼんやりと自分の外の世界を見せてくれる。その瞬間、わたしは思う。今日はどんな卵とじが出来るだろうか?と。

①親子丼を作るあの鍋を用意する
②つゆを入れ、そこに鶏肉と玉ねぎを入れて煮る
③軽くほぐした卵を回しかけ、三つ葉を散らす

イラスト:yuki narita

 鶏肉と玉ねぎと三つ葉はとろとろの卵で一つにとじられるのだ。これが一般的な卵とじの作り方である。

 お待たせしました。お次はいよいよ、わたしオリジナルの卵とじのレシピのご紹介です。

①まばたきをする

 たったのこれだけである。

 バラバラなものを一つにするのが卵とじだ。わたしたちは常に、風景や音、匂いや味や手触りなど様々なことを感じている。まばたきをすることで、バラバラに在るその瞬間のすべてを一つにとじる。つまり、卵とじにするのだ。わたしはまばたきをするたびに卵とじを作っているのである。

 目はカメラ、まばたきはシャッターに例えられることが多い。その場合、出来上がるのは写真だが、わたしの卵とじにはそこに写らないものもすべて入っているのだ。

 卵とじはいたるところに存在する。

 日が昇る頃、カーテンを開ける。家は窓ガラスという目を通して外を見る。カーテンは家のまぶたなのだ。

 日が沈む頃、そのまぶたは閉じられる。家は一日に一回だけ長いまばたきをするのである。

 そのまばたきでどんな卵とじを作るのだろう。明けてゆく空を飛ぶ小鳥のさえずり、日差しの中で揺れる木々、夕日に照らされた子どもたちの笑い声。

 きっと、もっと素敵な卵とじを家は日々作っていることだろう。いつかいろんな人や物が作る卵とじを見ることができたら、わたしはそれを卵とじにしてみたい。

 わたしの人生も、長い歴史から考えれば宇宙のまばたきの一つだ。この人生は一体どんな卵とじになるのだろうか。だが、これは宇宙が作ってくれるのではない。わたしが自分で作るのだ。

 夜、布団に横たわると、今日作ったたくさんの卵とじが白い天井を埋め尽くすように浮かんでいる。風景も、音も、匂いも、味も、手触りも、そのすべてが思い出される。

 一日の終わり、そのたくさんの卵とじを一つの大きな卵とじにする。今日経験したいろんな瞬間が、一日の思い出として一つにとじられるのだ。この大きな卵とじもまたとじられて、わたしの人生という巨大な一つの卵とじになるだろう。

 さて、天井に浮かぶ今日の卵とじを見たことだし、そろそろ上まぶたと下まぶたをくっつけるとするか。こうしてわたしは夜の布団で目を閉じる。

 しま・ふうか
1999年3月生まれ。黒部市在住。歌人。2022年に第1歌集「すべてのものは優しさをもつ」(ナナロク社)を刊行。