チャレンジしたいことや、頂いた大きなオファーを近しい人に話すと、皆が「最高だね!」と言う。手放しで応援し喜んでくれる、家族やパートナー、友人たちの存在は本当にありがたいものだ。

 「私のトナカイちゃん」は、1杯の紅茶をおごったことがきっかけで、女性からストーカー被害に遭ってしまう男性の物語。主演俳優の自身の体験を基に創作した、ヒューマンドラマだ。

 ロンドンのパプで働きながら、芸人で売れることを夢見るドニー。ある日、職場に「紅茶を飲みたいがお金がない」と涙ぐんで話す中年女性、マーサがやってくる。同情したドニーが1杯ごちそうすると、彼女の恐ろしい執着心に火が点いてしまう。マーサは毎日パブへ通いつめ、1日に何百通ものメールを送り、ドニーにつきまとい始める。

 ドニーは、自分のことを一方的に「私のトナカイちゃん」と呼び、妄想ばかりしているマーサに嫌悪感を抱くが、完全に拒否することができない。半年が経ち、ドニーは意を決し警察へ向かう。被害を報告するうち、ふたをしていた過去のつらい記憶を呼び覚ましてしまう。

 第6話、ドニーはスタンダップ新人大会の決勝に残る。観客の笑いを取ることができず、投げやりになった彼は、過去に出演した芸術祭での出来事を話し始める。ある人に出会い、芸人としても男としても社会的評価と心を傷つけられた、忌まわしい経験が明るみになる。そのことで自己肯定感の低いドニーは「危険でも、褒めてくれれば充分だった」と、マーサを拒絶できなかった本当の理由に気づく。

イラスト:kumiko yamaguchi

 劇中で流れるジョージ・ハリソンの「If not for you」は、共依存性をはらんだ、被害者と加害者の関係を表しているようにも聴こえる。「君がいなければ/扉が見つからないんだ/居場所もわからず/落ち込むばかりだよ」。

 ドニーと違って、私は自己肯定感が低くない(高くもないけれど)。冒頭で書いたように、それは周囲の人たちのおかげなのだと、本作を観て気がついた。とはいえ、その関係にうぬぼれたり溺れたりしないように、背筋がピンと伸びる思いでこの原稿を書いている。

DJ CHIGON 富山市在住。ロックDJパーティ「LOVEBUZZ」のDJ。インディーロックを中心にプレイしている。

作品はこちら