3月号で子供を持たないことについて書いた。「読んでとても励まされた」という感想を読者から直接頂いた。彼女も私と同じ。周囲の言葉に後ろめたさを感じ傷ついていたのだという。
「舟を編む〜私、辞書つくります〜」は、中型辞書「大渡海」の辞書を作るため、十数年に及ぶ時間と手間をかける編集部員たちの奮闘を描いた群像劇。三浦しをんのベストセラー小説を原作に、視点を変えて新たな時代と主人公を設定している。

玄武書房の編集者・岸辺みどりは、ファッション誌編集部から辞書編集部へ異動になる。そこは生真面目な上司・馬締や辞書監修を務める日本語学者・松本といったくせ者が揃う部署だった。彼らに翻弄されながらも根気と熱意に触発されたみどりは、次第に自らも「言葉」の魅力を発見する。そんな中、些細なケンカから同棲中の恋人が家を出て行ってしまう。
みどりは、恋人が離れていった原因を思い返す。作ってくれた朝食を「ご飯食べてる時間〝なんて〟ないから」と食べずに出勤してしまった。カメラマンになる夢を追う彼に「カメラ”なんて”置いて話を聞いて」と愚痴をこぼし続けた。知らぬ間に傷つけていたことに気づいた彼女に、馬締は「全く意図していないことを、言葉が勝手に伝えてしまうこともある」と言葉の力について話す。そして松本は「悪いのは言葉ではなく、選び方と使い方だ」とみどりを諭した。
第9話、辞書編集部のSNS担当になったみどりは「言葉はナイフにもなってしまう。選び方と使い方にまだ自信がない」と不安な気持ちを打ち明ける。松本は「言葉のナイフを抜き、止血して手当てができるのは、また言葉なのではないか」とみどりを励ます。
私もみどりと同じで、感情を表す言葉や書く文章にまだまだ自信がない。読者の言葉を頂いた瞬間、うれしさで胸がいっぱいになった。思わぬ出来事に言葉が詰まり、ちゃんと自分の気持ちが伝えられたかわからない。改めてここで文字にしておきたい。「私も、あなたの言葉に励まされました」と。
この連載では毎回、挿入歌の歌詞を書いてきた。しかし、本作にはテーマ曲も挿入曲にも歌詞が付いていない。おそらく、登場人物の放つ言葉を引き立たせる意図があってのことだろう。より引き立たせるために、字幕付きでの鑑賞をおすすめしたい。