〝ジュン〟という名前の人を見かけると、6月生まれなのかな?と思う。きっと6月を表す英語、Juneからとったのだと。『となりのトトロ』に出てくる〝サツキ〟と〝メイ〟は、姉妹揃って5月生まれに違いない。

 こんなふうに生まれた月や生まれ年の干支にちなんだ名前の人というのは結構いる。だが、わたしの名前は〝弥生〟でも〝うさぎ〟でもなく〝楓果(ふうか)〟だ。

 わたしが自分の名前の由来を初めて知ったのは小学生の頃だった。家族に自分の名前の由来についてインタビューしてそれを発表するという授業があったのだ。

 さっそく聞いてみたところ、名前をつけてくれた母はにこやかにこう言った。「一番かわいいと思った名前やったから。ただそれだけ。」

イラスト:yuki narita

 自分の名前を思うたび、木に風が吹いて果実が実る映像を浮かべていたものだからそれを聞いたときは驚いた。だが、母のこの言葉がわたしはとてもうれしかった。わたしなら、一番かわいいと思う名前は一番かわいいと思うものにつけたい。母が他でもないわたしにそうしてくれたことに純粋な愛を感じたのだ。具体的な願いではなく、ただただ幸運を祈って画数にはこだわったようだ。〝風花〟にするつもりだったところを〝楓果〟に変えたらしい。ちなみに男の子だったら〝一平〟。半濁音のぺが入っていてわたしもお気に入りの名前だ。

 つくづく名前というものはおもしろいと思う。自分の名前は自分ではない誰かがつけてくれたものだ。それが自分を示すものになる。名付けというのは、その存在を他の大多数と区別して特別なものにする行為だ。名前は自分で言うよりも人から呼ばれる回数の方が多い。名前をつけることと同じように、名前を覚えて呼ぶこともまた愛であると思う。

 わたしは人の名前の由来を聞くのが好きだ。名前をつけた人が込めた祈りの中身を知ると、途端に目の前のその人のことが愛おしく思えてくる。親から子へと先祖代々続いてきた祈りの末にわたしたちは存在し、出会い、会話をしている。その祈りが形となった名前を呼び合えることをとてもうれしく思うのだ。

 そういえば最近〝てりたま〟という名前の柴犬が人を助けたというニュースを見た。ユニークな名前やシブい名前などいろいろあると思うが、ペットに食べ物の名前をつける人は多い。

 わたしだったら何と名付けるだろうか? 今だったら〝ホタルイカの天ぷら〟にするかもしれない。今年の春に初めて食べてあまりのおいしさにハマってしまい、その後何度も食べたほど好きな食べ物なのだ。半濁音も入っている。

 今回初めて知ったのだが、ペットに食べ物の名前をつけると長生きするというジンクスがあるらしい。

 つい先日、広島の和菓子に〝楓果(ふうのか)〟というのがあることを知った。そう、わたしの名前も食べ物の名前なのだ。

しま・ふうか
1999年3月生まれ。黒部市在住。歌人。2022年に第1歌集「すべてのものは優しさをもつ」(ナナロク社)を刊行。