芸術は戦争と無縁でいられるか。そんなわけはない。最近だってエドガー・ドガの「ロシアの踊り子たち」は、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻に異議申し立てするかのように「ウクライナの踊り子たち」に改名された。

日本では戦意高揚や記録のため、戦争画が利用された。戦後には、国家による戦争の片棒を画家が担いでしまった事実が激しく糾弾された。まあ、アメリカの国民的キャラクター、ミッキー・マウスだって映像の中で零戦を撃ち落としていたけど。
さて、一時は美術作品としてはタブー視された戦争画だが、川端龍子は存在感を失わなかった。
龍子も従軍画家だった。南洋諸島や中国大陸を訪れ、戦争画の名作を残している。画面からはみ出すような勢いでシースルーの戦闘機を描く「香炉峰」が代表作だろう。独特の奇想が迫力を与える作品たちは、いつまでも新しい。
龍子の戦争画の中でも異色作が本作「爆弾散華」だ。カボチャやトマト、ナスの花が宙を舞う。生命力と躍動感がにじむ作品だ。金箔や金砂子が命のきらめきにも見えるが、どこか異様だ。なぜ野菜が風に吹き飛ばされるのか。実は、きらめきが表現するのは爆弾の閃光や爆風なのだ。
終戦の2日前、龍子の自宅は爆撃を受けて焼失した。家だけでなく、使用人2人の命を失った。龍子が画面に装飾的に切り取ったのは、爆撃の一コマをクローズアップしたものだ。
「散華」という言葉に祈りがにじむが、どんなものでも描いてしまう画家の業の深さにも驚かされる。
戦争は形のない怪物だ。画家としての龍子は人々の命と暮らしを奪った怪物に、拳を振り上げることもせず、ただただ美しく描いて見せた。湿り気も恐怖もない。これは芸術家だけができる復讐なのだ。戦争に対する優雅で激しい復讐なのだ。戦争の悲惨さを歯牙にもかけない。美だけを抽出した。
ちなみに龍子はその後、庭の爆弾跡を池にした。 (田尻秀幸)
会 場:県水墨美術館
会 期:開催中〜5月26日(日曜日)
休館日:月曜日(ただし4月29日、
5月6日は開館)、5月7日(火曜日)
開館時間:午前9時30分〜午後6時
(入室は午後5時30分まで)
観覧料:一般:900円(700円)
大学生:450円(350円)
( )内は20人以上の団体料金
問い合わせ:TEL.076-431-3719
