人生の機微を鋭くも優しい文章で伝える燃え殻による同名エッセイを、阿部寛主演で映像化した。

 男性作家が突然失踪した恋人を探すにつれ、これまで関心がなかった他人への興味を持ち始める、ミステリアスなラブストーリー。作家Mと、5年付き合った恋人Fは些細なことで連絡を取らぬまま3週間が経った。「仕事が忙しい」を言い訳に主体性のない彼は、馴染みのバー「灯台」の店員と常連客に促されFを探し始め、自分が知らない彼女の素顔を知っていく。

 このバー「灯台」のオーナーや常連客、Mのやり取りが心に残る。常連客は家族の介護や家業を継ぐためのUターン、結婚などそれぞれが岐路に立つ心情を吐露する。アルバイトの女子大生は韓国留学に旅立った。人生のある一瞬しか交錯しない人にも様々なドラマがあるのだ。

 オーナーの「今さらずっと一緒に…みたいな約束もしたくないしね」という言葉にハッとした。肉親や恋人など、近しい人以外の喪失に寂しさを感じる場面は、わたしにも身に覚えがある。

 オーガナイザーを務めるパーティ”ラブバズ"は、今年で22年目を迎える。わたしは20代から40代になり、DJもお客も当初から顔ぶれがずいぶん変わった。

イラスト:kumiko yamaguchi

 これまでラブバズで出会ったたくさんの顔が思い浮かぶ。創設者の1人は神戸で暮らしている。おしゃれな大学生3人組は、それぞれ地元や転勤先で子育てと仕事に奮闘中。最古参の常連である40代男性は変わらずやってきて、新たな20代の女の子も足を運んでくれる。Mと同様、この先も些細な出会いと別れを繰り返し、回を重ねていくのだろう。

 第7話で、日本のミュージシャン、テンダーの「Moon」が流れる。「悲しさも優しさも/時が満ちたら触れないんでしょう/もう何もかも忘れないように飽きが来るまで踊りましょう」という詞は、人生の半分をラブバズと共に過ごし、嬉しさと寂しさが入り混じった今の気持ちを表すのにぴったりだ。

DJ CHIGON 富山市在住。ロックDJパーティ「LOVEBUZZ」のDJ。インディーロックを中心にプレイしている。

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