両手に息をハーッと吐いて擦り合わせる季節になった。

 こんなときは湯気が似合うものが食べたくなる。というわけで湯気のベストフレンド、おでんを作ってみた。

イラスト:yuki narita

 数あるおでん種の中でも、わたしが今もっとも気になっているのは餅巾着だ。

 まず名前がいい。薄揚げ巾着(餅入り)でも良さそうなのに、巾着が薄揚げなことは当たり前といった感じで餅の方を名前に採用しているのがたまらない。

 かんぴょうのハチマキを締めているのもいい。ハチマキを締めた瞬間に、薄揚げは巾着に変身するのだ。

 そういえば、かんぴょうは昆布巻きやロールキャベツも掛け持ちしているが、いつ見てもお洒落だなと思う。餅巾着やロールキャベツのときは淡色系でまとめ、昆布巻きのときは黒の中でアクセントとなっている。

 それがかんぴょう巻きになると今度は一転、巻かれる側になるのだ。巻き巻かれ留めて食べられの仕事ができるのはかんぴょうくらいだろう。

 さて、おでんといえば皆さんもご存知の通り熱々だ。恥を忍んで告白するが、わたしは今までフーフーしてから食べるという習慣がなかった。

 熱くても冷たくてもこんなものかと思ってそのまま食べること早二十四年。ついに、熱々おでんにフーフーしてみた。

 なんと、口の中が痛くない。そして、味がよく分かる。これからはおいしいものをもっとおいしく食べられるということか。フーフー様様だ。

 こうしてフーフーをマスターしたわけだが、ふと疑問が湧いてきた。な
ぜフーなのだろう、と。

 さっそく検証が始まった。まずはフーが所属しているハ行からのスタートだ。

 ハーは、風が温かくておでんがますます熱くなりそう。ヒーは、当たってほしいところに当たらない。ヘーは、暑いときの犬みたいでおでんよりも自らを冷ます方が向いている。ホーは、口の形がフーに似ているものの風はまったくの別物。

 やはりフーに軍配が上がった。

 ではウ段はどうだろう、と思った。母音がウならいける気がしたので、こちらも検証することにした。

 ウー、クー、スー、ツー、ヌー、フー、ムー、ユー、ルー。メモを取りながら一つずつ試していった。

 気になる検証結果はこちらだ。

 三位ウー、二位クー、一位フー

 見事優勝を勝ち取ったのはみんなの相棒フー。大接戦であった。

 検証を終えて満足したわたしは、いつものように手に息を吐いて擦り合わせた。

 検証で酸欠になった影響なのか、ハーではなくマスターしたてのフーを手にお見舞いしてしまったが、おでんで温まったわたしにはその風がなんとも言えない心地よさだった。

しま・ふうか
1999年3月生まれ。黒部市在住。歌人。2022年に第1歌集「すべてのものは優しさをもつ」(ナナロク社)を刊行。