新生姜の甘酢漬けをもらった。伯母が家で作ったのをおすそ分けしてくれたのだ。

 それは、赤のギンガムチェックのふたが可愛いジャムの空き瓶に入れられ、きれいな薄ピンク色の液体に浸かっていた。

 食べてみると、それはもうびっくりするほどおいしかった。もっと食べたいのに食べたら無くなると思うと、食べよかやめよか行ったり来たり状態になってしまった。

 そんなこと気にせずに食べたい。そう思ったわたしは自分で作ってみることにした。人生初の挑戦である。

イラスト:yuki narita

 キッチンに大きめの空き瓶があったのでそれに作ることにして、手のひらよりも大きい立派な新生姜を買ってきた。これで準備万端だ。

 まず始めにいくつかに切り分けて皮をむくのだが、これが難しい。皮どころか実まで無くなってしまいそうだ。だが、少しでも多く食べたいという執念がわたしを強くさせた。

 そうしてむき終えた生姜はそれなりの大きさを保っていた。わたしにしては上出来だ。

 ふと、そのうちの一つが親指を立てたグッドポーズに似ていることに気づいた。こんなわたしでも生姜は健気に応援してくれているのだ。

 「ありがとう。生姜くん!」。こう呟きながら、次の工程スライスへと移った。

 こちらはスライサーにお世話になったので楽々だった。最後の方は指までスライスしそうなので包丁で薄切りにした。少々厚めのものができてしまったが、そこはご愛嬌ということにしておこう。

 部屋中に広がったさわやかな匂いに癒やされていると、なんだかじわじわと暑くなってきた。そうか、生姜には体を温める効果があるのだった。納得しかけたが、わたしはまだ一口も食べていないのだ。

 そうこうしているうちに汗まで出てきた。どうやら生姜は食べなくても体を温める効果があるらしい。

 そんな生姜を瓶に詰め、甘酢を注ぐ。すると、黄色の生姜はたちまち薄ピンク色に変わった。魔法でも見ているかのようで、その瞬間、わたしの心もピンク色に染まった気がした。

 きれいな小皿に盛り付けて箸休めに食べることを想像しニヤニヤしていると、Tシャツがところどころ黄色く染まっているのが見えた。エプロンをつけ忘れていたのだ。よりにもよって真っ白のTシャツである。もう手遅れだ。

 だが、このピンク色の心、なんとしても悲しみで染めるわけにはいかない。そうだ! Tシャツ全体を生姜で染めよう、と思った。

 生姜染めのTシャツを着て新生姜の甘酢漬けを作る自分を想像すると、なんだかワクワクしてきた。

 こうして無事、ピンク色の心は悲しみに染まることなく、白色のTシャツを生姜色に染めるという新たな予定ができた。

 「悲しみに心染めずに服染めろ」。思いがけない名言が誕生した一日であった。

しま・ふうか/1999年3月生まれ。黒部市在住。歌人。2022年に第1歌集「すべてのものは優しさをもつ」(ナナロク社)を刊行。