暑い日にはかき氷が食べたくなる。

 言うまでもなく、氷を削ったものだけあってとても冷たい。それに、頭にキーンときたり歯に染みたりして別の意味でもひやっとする。夏にはもってこいの食べ物だ。

イラスト:yuki narita

 スプーンを入れたときの音や感触が涼しげなのもいい。雪道を歩く感覚に似ている。登校中に滑って尻もちをつき、自分でも驚くほどの素早さで立ち上がって、何事もなかったかのように歩きだした、あの冬の日のいたいけなわたしが見えてくるようだ。

 子どもの頃は、ブルーハワイのシロップで真っ青になった舌を鏡で見るのが楽しみだった。何か別の生き物になったみたいで、そんな時はすかさず扇風機の前へ行き「ワレワレハウチュウジンダ」などと言っては一人で楽しんだものだった。

 お祭りでも必ずかき氷を買ってもらった。氷が削られる様を覗き込むようにして見ていると、ふわふわの氷が顔に降ってくるのだった。夏と冬が同時にあるみたいでとても嬉しかったのを覚えている。

 そういえば最近、似たようなことがあった。

 ある日の風呂上がりのことだ。のぼせたのか顔が赤かったので、うちわであおいでいた。だが、いくらあおいでもなかなか涼しくならずどうしたものかと考えていると、いいことを思い出した。前にテレビか何かで、顔に氷を滑らせる美容法を叶姉妹が紹介していたのだ。これなら顔のほてりも取れるだろうし、おまけに美顔効果も期待できそうだ。こんなにお得なことはそうそうない!と期待に胸を膨らませ、早速やってみることにした。

 顔に当てると氷はすぐに溶け出した。したたる水も冷たく、なかなか気持ちいい。軽く滑らせただけであっという間に溶けてなくなってしまった。

 鏡の中の顔は見違えるほど白くなっていた。心なしか肌も綺麗になった気がする。とても気に入ったので、明日もやろう!とニコニコしながら眠りについた。

 翌朝、鏡を見たわたしは目を疑った。なんと、両頬がしもやけになっているのだ。赤い。風呂上がりよりも赤い。発情期の猿のお尻といい勝負だ。

 まさか夏にしもやけになるなんて。わたしはすっかり忘れていたのだ。自分が敏感肌の持ち主だということを。

 一瞬、叶姉妹を呪いそうになったが、二人は何も悪くないと思い直した。叶姉妹になるには時期尚早だったということだろう。

 結局、その後の3日間は逃亡犯のように人目を忍んで過ごすことになったのだった。

 ぜひみなさんもかき氷を食べて、はたまたクールなチャレンジャーは顔に氷を滑らせて、夏に冬を感じてみませんか?

島楓果/しま・ふうか
1999年3月生まれ。黒部市在住。歌人。2022年に第1歌集「すべてのものは優しさをもつ」(ナナロク社)を刊行。