あの激闘から約1カ月。甲子園を沸かせた2人は髪が少し伸び、普通の高校3年生に戻っていた。とはいえ、和やかに進んだインタビューの合間に時折見せた鋭いまなざしは、富山大会、そして甲子園で見せた、白球を追う勝負師のそれ。間違いない。全国の高校野球ファンからSNSなどで「アライバ」と絶賛された守備は、やはりこの2人が成し遂げたのだ。県高校球史に残るであろう大接戦の中で飛び出した「あのプレー」の裏側に迫った。

 8月9日、第105回全国高校野球選手権大会1回戦・鳥栖工(佐賀)-富山商。序盤に1点ずつ取り合ったものの、その後は双方決め手を欠き、試合はまさに「我慢比べ」の様相を呈していた。少しのミスも許されない。そんな状況の中で迎えた七回裏2死。鳥栖工の打者が放った打球は完全などん詰まりながらもセンターへ抜けようかという難しい当たり。バックハンドで追いついたのが二塁手の白木球二だった。「アウトにする確率の最も高いプレーは…」。張り詰めた緊張感の中、白木は冷静だった。瞬時に体を反転させて一塁に送球するオーソドックスな選択肢は採らなかった。「あいつがいるはず」。二塁ベース付近にそのままグラブトス。そこへ走り込んでいた〝あいつ〟遊撃手の竹田哩久がボールを受け、一塁へ転送。ゆうゆうアウトを奪った。

 
鳥栖工-富山商 7回裏鳥栖工2死、白木からのグラブトスを一塁に転送し、アウトを奪う竹田。SNSなどで「アライバ」と絶賛された=8月9日、甲子園

「相手を信頼していた」

 「あの時、竹田の姿は全然見えてなかったんですよ。でも、必ずあの辺に走り込んでいるだろうと」と白木。一方の竹田も「二遊間の打球なので自分も当然追っていた。白木が捕った瞬間、これはトスをよこしてくるだろうなとピンと来た」と振り返る。着実なプレーをモットーとする富山商では、普段このような連係プレーは行わない。練習で時々試すことはあったが、ほとんど成功したことはなかった。しかも、1年生の秋から遊撃手のポジションをつかんだ竹田に対し、白木が二塁手に定着したのは3年生の春。つまり白木・竹田の二遊間コンビはわずか数カ月のキャリアしかない。それでもあの瞬間はお互いに通じるものがあったという。

 「思わずやっちゃったんですよね」と苦笑いする2人。練習でもできなかったこと、普段やってこなかったビッグプレーを本番で披露した。しかもまったくミスの許されない我慢比べの試合で。ほぼぶっつけ本番状態でありながら絶妙な連係プレーを完成させた理由を尋ねると、2人は口をそろえた。

 「相手を信頼していたんで」

 結成わずか数カ月のコンビとはいえ、積み重ねてきた密度の濃い練習が深い信頼を生み、土壇場で2人を心が通じ合う仲にまで昇華させたということか。

インタビューの合間に笑顔を見せる竹田(左)と白木。グラウンドを離れた時の表情は普通の高校生そのものだ=富山商業高校

SNS賞賛「プロやん!!」

 この瞬間、SNSは沸騰した。

「富山商の二遊間アライバやんけ」
「鳥栖工と富山商の試合内容凄すぎじゃね 半端ないプレーばかりだしアライバだし」
「高校野球でアライバ二遊間を観られるとは…」
「プロやん‼ プロで見るプレーじゃないか‼ ってテンション上がったよ‼」

 プロ野球・中日でかつて「鉄壁の二遊間」と称された荒木雅博さん、井端弘和さんを示す「アライバ」が一時、X(旧ツイッター)のトレンド入りを果たすほどの話題となった。「アライバ」になぞらえて「シロタケ」と評する声もあった。その後も両校は好守を連発。特に富山商が見せた数々の堅守は全国の高校野球ファンをもうならせ、「もうこれが決勝でいいよ!」「見ながら感動して泣いている」など、白熱の戦いを絶賛する声がSNSで相次いだ。

監督の顔「見てない」

 当の2人はあの瞬間、どう感じていたのだろう。「球場全体から『ウオー!』と歓声が

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