東日本大震災から来年で15年を迎えるのを前に、東北大学副学長の今村文彦・災害科学国際研究所教授(津波工学)と、震災に伴う原発事故で避難し震災語り部として活動する小泉良空(みく)さんが仙台市で講演した。科学的知見と被災者の視点から、それぞれが大震災をどう語り継ぐかを来場者に問いかけた。

今村教授「経験を次世代へ」

 今村教授は「東日本大震災の実態と教訓」と題して講演。宮城県沖では過去にM7~8級の地震が繰り返されていたが、3・11の場合は震源域が南北に広がり、M9という想定を超える規模になった点を説明した。

東日本大震災の実態や教訓について話す今村教授=仙台市内

 仙台平野を襲った津波は砂や泥を巻き込んで「黒い津波」と化し、防災林や防潮堤を乗り越えた。福島第1原発では津波が取水口など地下構造にも逆流した可能性があり、「検証は今後も続ける必要がある」と述べた。

 現在の津波情報は、発生直後に「巨大地震」とまず警戒を促し、時間の経過とともに詳細な規模を伝える仕組みになっている。「情報の早さと詳しさはトレードオフの関係。発生直後は規模を推定できない」と説明した。

複合災害への視野

 地震や津波と原発事故、火災が連鎖した大震災を機に、防災研究は単独災害から複合災害へと視野が広がった。自然科学に加え、社会学や医学など多分野が協働する学際研究が進んだとし、「避難困難、インフラ障害、心のケアなど社会的課題と重層的に向き合う必要がある」と強調した。

 このほか仙台東部道路へ住民が避難し300人以上の命が助かった事例を紹介。 

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