ひさしぶりに弁当屋に行った。ほっかほっか亭、通称ほか弁である。
ショッピングモールの一角にあるほか弁は、お昼時ということもあってか繁盛していた。

わたしと母はしばらく待ったのち、迷わずのり弁当を二つ注文した。食べたいね!と前々から二人で何度も大盛り上がりした待望ののり弁だ。番号札を受け取り、レジ前の椅子に腰掛けて出来上がりを待つことにした。
その時、扉から顔だけを出して店内を覗き込む人が見えた。店員はすぐに気づいたようで「野菜炒めできてますよ」と弁当が入った袋を手渡しに行った。
驚いた。番号札を見ていないのだ。こんなに忙しいのに、誰が何を頼んだか顔を見るだけで分かるのか。
その後も、受け取りに来るたびに正確に弁当を渡していく。きっと、お客の顔には弁当の名が書いてあってこの店員にだけは見えるのだ。わたしと母の顔にもそれぞれ「のり弁」と書かれているに違いない。すごい。ウルトラ店員だ。
感激したわたしは、もし自分がほか弁で働いたらウルトラとはいかないまでもスーパー店員くらいにはなれるだろうか?とぼんやり考えた。
そこへ新しいお客さんが来た。「唐揚げ弁当一つ」
わたしはさっそく頭の中でお客さんの右頬に「唐揚げ」と書いてみた。これでウルトラ店員に一歩近づいたはずだ。
店内が空き始めてきて調理場が見えた。わたしと母ののり弁を作っている最中のようだ。今度はのり弁作りの妄想を始めた。
どうやらわたしは揚げ物担当らしく、横には揚げ物を載せるだけで完成という状態で二つの弁当が置かれている。わたしはそこに丁寧に丁寧に魚フライとちくわ天ぷらを載せ、蓋を閉めた。そしてそれを袋に詰め、お客さんに手渡した。
わたしにもできた!と安堵した瞬間、右ののり弁にフライを二つ、左ののり弁に天ぷらを二つ載せてしまったことに気づいた。やっちまった。それぞれ一つずつだったのに。待ってください!そこののり弁のお客さまー!!
「のり弁できましたよ」の声でわたしは現実に引き戻された。
無事に妄想の世界から帰ってきたわたしはお客としてお金を支払い、のり弁二つを受け取って家に帰った。
フライと天ぷらが一つずつ載ったのり弁を食べ終えた頃、脳裏にうっすら「唐揚げ」という文字が浮かんできた。なんだっけ?
そうだ。接客の練習もしてたんだった。すっかり忘れてた。
こうしてかろうじて唐揚げ弁当の注文は思い出すことができたが、それを渡すべきお客さんの顔は未だに思い出すことができないままである。ウルトラ店員までの道のりはまだまだ長いようだ。
1999年3月生まれ。黒部市在住。歌人。2022年に第1歌集「すべてのものは優しさをもつ」(ナナロク社)を刊行。
本当は春菊嫌いじゃなかった