あなたは人と一緒にご飯を食べるとき会話をしますか?

 こう質問されたら、はいと答える人がほとんどだと思う。人と人とが同じ場所で同じ時間を過ごすなら、会話をするのはごく自然なことだろう。

イラスト:yuki narita

 一般的にお食事会といえば、お喋り会も兼ねていることはご存じの方も多いと思う。「飯いこうぜ!」と友達同士で誘い合ったりしているのも、ただ食事をしたいというよりは喋りたいからという場合がほとんどだろう。

 だが、わたしにはこれがどうも不思議だ。何を隠そうこのわたし、食べながら喋るということが苦手な人間なのだ。

 だからこの件に関しては、子どもの頃からちょっとした研究をしていた。

 調査の舞台はもっぱら学校だった。観察対象が大勢いて、調査にはもってこいだからだ。ただ、じっと見ると気持ち悪がられる恐れがあるため、ちらちらと観察した。

 給食の時間になると、対象は食事を楽しみながら当たり前そうに会話も楽しんだ。喋りながらも口から食べ物を飛ばすことはなく、一つの口で食事と会話を両立させている。不思議だ。

 それにしても、あんなに喋っていつ噛んだり飲み込んだりしているのだろうか?リスみたいに頬袋に食べ物を溜め込んでいるのではないかと疑ったが、頬はいつもとそう変わりないように見える。どういうカラクリが隠されているのだろう?

 そうこうしているうちに、対象はぞくぞくと食べ終えていく。早い。

 そのうち「あーおいしかった!」と感想まで喋りだした。信じられない。食事と会話の両立は、味が分からなくなってもなんらおかしくない忙しさのはずなのに、味についてのコメントまでするとはなんて器用なんだろう。

 うまいこと食べて、うまいこと喋って、仕上げに「うまい!」と感想まで呟くわけだ。対象には食べる用と喋る用の二つの口が付いているに違いない。

 よし、明日はそこに注目して観察しよう。と意気込んだ瞬間、チャイムが鳴った。給食の時間が終了した合図だった。

 一方のわたしはというと、一言も喋らず誰よりも口を食事だけに集中させていたはずなのに、その誰よりも食べ終わるのが遅いのだった。

 結局、そのせいでみんなを長らくお待たせしてしまうという失態をおかしてしまった。

 ちょっと考えてみれば、口が二つないことくらいすぐ分かるだろう。食事と会話の両立ができないのは、単にわたしが不器用なだけなのだ。

 トータルで見ると調査は成功とは言えないが、クラスのお荷物になるのは成功したようだった。

 目を閉じて光を消せば眼裏の世界は今日の夜に似ている

島楓果/しま・ふうか
1999年3月生まれ。黒部市在住。歌人。2022年に第1歌集「すべてのものは優しさをもつ」(ナナロク社)を刊行。