スーパーを歩いているとなにやら視線を感じた。目を向けると、見覚えのある懐かしい顔である。それが、小さい頃にばあちゃんがよくくれたミニあんぱんだと気づくのにそう時間はかからなかった。ふと、ばあちゃんがこのあんぱんをわたしの小さな手のひらに載せてくれるあの感じが蘇ってきて、居ても立っても居られなくなり購入することにした。

 久々の再会に躍る胸にあんぱんを抱いて帰宅し、さっそく食べてみた。「世界で一番初めにパンの中にあんこを入れようと思った人ありがとう!」とあんぱんの歴史にまで
思いを馳せるほどの美味しさだった。

イラスト:yuki narita

 でも何かおかしい。ふかふかで丸々としているのだ。それになんと言っても、手のひらに載せたときのパンと手の比率があの頃と変わらない。だいたい子どもの頃の思い出の物は大人になると小さくなったように感じるものだが、これは逆に大きくなったような気がする。

 これはこれでとても美味しいのだが、あまりにも思い出とかけ離れているので、ははーん、さては違うものを買ったのだなと思った。どうやら人違いをしたまま家に連れ込んでしまったようだ。申し訳ない気持ちになりながら慌ててパッケージを確認すると、やっぱりこれで間違いない。記憶の中のパッケージと完全に一致している。

 じゃあ何が違うのだろうか? 解決の糸口となることを願って、あの頃を思い出してみることにした。たしか、ばあちゃんはあんぱんを買っ
てくると部屋の隅にあるカゴに無造作に入れていた。そこから取り出してはわたしにくれていたのだが、そのカゴにはせんべいやらなんやらもお構いなしに上からどんどん放り込んでいた。そうか!あの思い出のあんぱんは潰れていただけだったのだ。
 これにて一件落着としたいところだが、今度はどうしてもあのあんぱんを食べたいという衝動に駆られた。よし、潰そう! こう決意したはいいものの、いざふかふかの丸いあんぱんを前にするとどうしても潰すことはできなかった。

 そこで気付いた。見た目なんか関係ない、どんな形でもわたしにあげようと思ってくれたその気持ちが嬉しかったのだと。ばあちゃんの気持ちそのものだったあの四角くてぎゅっと詰まった小さなあんぱんを大切にずっとずっと覚えていよう。そう誓いながらふかふかの丸いあんぱんを頬張ったのだった。

 後日、この話をしにばあちゃん家に行った。小さくなって皺も増えたばあちゃんは、事の顛末を聞き終えるとあの頃と全く変わらない笑い方で笑っていた。

プロフィール
しま・ふうか
1999年3月生まれ。黒部市在住。歌人。2022年に第1歌集「すべてのものは優しさをもつ」(ナナロク社)を刊行。