「好きな食べ物はなんですか?」
誰でも一度はされたことのある質問だと思う。わたしも今まで何度か聞かれ、何度か答えてきたが、そのたびに自分自身が遠くなっていくような感覚を覚えた。
保育所では「かぼちゃの味噌汁」と答えた。先生に気を使って、給食のメニューから選んだのだ。だが、この頃はまだ体が小さく、あまり食べられなかったので、給食が好きではなかった。みんなが食べ終わったあと、廊下に出されて食べていた記憶がある。いただきますからごちそうさまでしたまでの途方もない時間を共に過ごしたよしみで、かぼちゃの味噌汁に白羽の矢が立ったのだ。

小学校では何と答えたのか記憶にない。もう給食はみんなと同じ量を食べられるようになっていたが、今度は自分の体型を気にし始めた。答えた記憶はないが、選ぶものによっては「だから太っとるんやよ」とか「太っとるくせに少食ぶっとる」と思われるのではないかと怯えていたことと、「唐揚げ!」と元気に答える同級生が眩しかったことだけは覚えている。
中学校では「すぐり菜のおひたし」と答えた。この頃また給食が苦手になって、隣の子に食べてもらったり、先生に減らしてもらったりしていた。人の目が気になり、箸の持ち方が正しいように、啜る音が出ないように、咀嚼音が聞こえないようにと常に神経を尖らせていた。魚の骨を口から出すのが恥ずかしくて飲み込んでいたほどだった。質問に答えないという選択肢もあったが、そうすると家では腹に入れば何でもいいといった具合で、手当たり次第に貪り食っているのではないかと思われてしまうと心配になった。そこですぐり菜なら周りの子は知らないのではないかと踏んで、何も思われないほうに賭けてそう答えたのだ。
わたしにとって食べ物と向き合うことは自分自身と向き合うことだ。今までは、食べ物があることがいかに恵まれているか分かっているのに食べ物がこわくて、そう思う自分のことも嫌いだった。ここ最近、にこにこしながら食べ物の話をする自分に会って、本当はずっと食べ物のことが好きだったのだと気づいた。食べることは生きることなのでそんな自分でいられることが、山を一気に駆け上がり頂上でヤッホー!と叫びながら小躍りしたいくらいうれしい。
最近は「おにぎり」と答えた。「具は梅干しで、周りにとろろ昆布がついとるやつ!」と。次に聞かれたときは「ご飯にゆかりが混ぜてあって、昆布は納豆昆布、さらにアルミホイルで包んであるとなお良し!」も追加してやろうと企んでいる。
プロフィール
しま・ふうか
1999年3月生まれ。黒部市在住。歌人。2022年に第1歌集「すべてのものは優しさをもつ」(ナナロク社)を刊行。