8/8〜8/10に、富山県民会館で「第41回全国学校図書館研究大会」が開催されます。そこで講演に来られる作家の方々の作品から、今回は3作品をピックアップしてご紹介します。自分自身について考え始める小学校高学年から大人の方まで、それぞれの視点で楽しめる3冊です。ぜひ、親子で読んでみてください。

小学校高学年〜中学生に読んでほしい一冊

那須田淳作『一億百万光年先に住むウサギ』(2006年 理論社)

主人公は、家政婦のバイトをしている中学3年生の翔太。物語の前半は、翔太の同級生のドイツ人留学生に盗難容疑がかけられ、それを晴らしていく話。後半は、別の同級生が自分の出生の秘密に悩んで家出をする話。最後にはその二人の家族のルーツが徐々に明かされていきます。

ドリス・デイが歌う「ケ・セラ・セラ」などの音楽や、物語の舞台となる鎌倉の景観などが随所に散りばめられ、情景描写が非常に美しい作品。また、おいしいコーヒーやおしるこ、カレーなどが、話の重要な脇役を果たしています。

タイトルや表紙に込められたこだわりを、自分なりに分析して楽しんでください。初恋という感覚だけでなく、相手を大切に思うすばらしさが、いろんな場面から伝わってきます。自分とは何か? どのような方向性に進めば良いのか? と考え、迷い始める年代に読んでほしい作品です。

中学生〜高校生に読んでほしい一冊

いとうみく『カーネーション』(2017年 くもん出版)

母親に嫌われていると苦しむ女の子、日和(ひより)。母もまた、娘を愛せないことで自分を責めていました。物語は娘の思いと、母の思いを交互に描く形で進んでいきます。私ではなく、妹ばかりを溺愛する母。そして、父親は家族の関係を壊したくないばかりに、干渉しようとせず、助けてはくれない…。中学生になった日和は、だんだん自分の悲しみの感情があふれ、心のバランスが取れなくなっていきます。友人、父の親友、母のいとこなど、周囲が関わり、支え、家族が新しい着地点を模索していく物語です。

お互いを思い合っていても素直に接することができず、取り返せない不幸な時間を過ごしていると分かっていても、どうしてもやめることができない、人間の心理の複雑さに触れることができます。
ハッピーエンドではない本の楽しみ方を知ることができ、児童文学から次の段階の読書へ誘ってくれる作品です。

小学校高学年〜高校生に読んでほしい一冊

角野栄子『ラストラン』(2014年 KADOKAWA)

『魔女の宅急便』など多数の有名な著書を持つ角野栄子さんは、今年“児童文学のノーベル賞”とも言われる、国際アンデルセン賞を受賞しました。

『ラストラン』の主人公は74歳のおばあちゃん、イコさん。人生の最後(ラストラン)として、オートバイに乗り、5歳で死別した母親の実家を訪ねることにしました。空き家のはずの実家には、12歳の女の子の幽霊がいます。娘を残して死んでしまった無念さから、成仏できずにいたイコさんの母親の幽霊だったのです。そして、74歳の娘と12歳の幽霊の母親はバイクで旅に出かけ、楽しくふれあい、今までの寂しさを埋めていく、心温まるファンタジーです。

10代の読者に向けて、74歳が主人公という本はどうだろう? と最初は戸惑うかもしれませんが、冒頭の小気味良いリズムの会話から始まり、いつの間にか話に引き込まれていきます。家族を残して死んでしまうこと、そして残された家族は?という重いテーマを、ファンタジーの中に潜めて、問いかけてくれます。

 


<教えてくれた人>
水島倫子 富山南高校 学校司書

第41回全国学校図書館研究大会(8/8〜8/10)では、上記3作品を書かれた作家の方々が講演されます。一般の皆さん、小中学生も参加できますので、ぜひこの機会にご参加ください。

参加費:1,000円(一つの講演につき)
場所:富山県民会館(富山市新総曲輪4-18)
事前のお申し込みは不要。会場にて、当日受け付け。

<日程>
8/8(水)13:50〜15:10「古典から今をみつめる」那須田淳氏(作家)
8/8(水)15:30〜16:50「わたしの書く物語」いとうみく氏(作家)
8/9(木)10:50〜12:10「物語が生まれるとき」角野栄子氏(作家)
8/9(木)13:50〜15:10「身近な自然をみつめて」今森光彦氏(写真家)
8/10(金)10:50〜12:10「本と人の関係をもっとゆたかに〜読み聞かせから読みあいへ〜」村中李衣氏(作家)