『藍を継ぐ海』で直木賞を受賞した作家の伊与原新さん(元富山大助教)。6月末に受賞後に初めて県内を訪れ、高志の国文学館(富山市)のイベントに参加した。来県に合わせ、富山大の教員時代の思い出や、最新刊『翠雨(すいう)の人』に込めた思いなどについてインタビューした。(聞き手・浜松聖樹、撮影・竹田泰子)

―高志の国文学館での講演はいかがでしたか。
富山の人の前で話すのは、安心感があるんですよね。作家デビューした時は富山にいましたので、応援してくださる方が多く、良い報告ができてよかったです。
―伊与原さんの作品はストーリーを楽しめるだけではなく、科学的な知識を学べるのが特徴だと思います。物語と知識のバランスはどうしていますか。
昔から悩んでいるところで、正解が分からないですね。僕はうんちくが好きなので、いくら読まされても平気ですが、一般的にはそうではありません。デビュー当時はうんちくを書きすぎて、編集者に「こんなにいりません」と言われ、そいでいきました。いまだに多いと言われることもあるし、逆に足りないと言われることもあります。さじ加減は少しうまくなってるんじゃないかな。
僕自身はやっぱり、「面白くて、ためになる」というのが最強のエンタメだと思っているんです。知識をひけらかすのではなく、僕自身が学びながら書いていますので、「これはこんなことらしいですよ。面白くないですか?」みたいな感じですね。

講演する伊与原さん
―『藍を継ぐ海』には、科学に加え、地方の歴史や文化も書かれていますね。
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