「杉木くん、山に登ってみないか」。入社して2カ月たち、日々の取材にも徐々に慣れてきたころ、社会部長にそう告げられた。7月1日の立山の夏山開きに合わせ、雄山(3003メートル)の山頂からご来光を取材する企画という。「楽しそう」という直感に従って「はい」と答えたものの、立山登山は小学1年生のとき以来16年ぶり。一抹の不安と共に向かった山中には「二つの幸運」が待っていた。(杉木昂太)

 まずは事前の準備からだ。先輩が書いてくれた「登山装備チェックリスト」を片手に、登山用品店に向かった。初心者のため、ほとんどの装備を新調しなければならない。ただ、山は危険と隣り合わせ。命を守るパートナー選びに妥協は許されない。登山靴やリュックなどを時間をかけて選んだ。

〝下界〟と別世界の涼しさ

 山開き前日の6月30日、写真撮影を担当する先輩の上田友香記者と共に立山駅に車で向かった。立山ケーブルカーと立山高原バスを乗り継いで室堂ターミナルに到着。バスの外に出ると気温は20度だった。うだる暑さだった〝下界〟で仕事をする同僚たちへの申し訳なさを感じながら、宿泊する立山室堂山荘に向かう。みくりが池に足を延ばすと雪がまだ残っており、山中にいることを実感した。

みくりが池周辺には雪が残っていた

 山荘に着いてしばらくすると、夕食の時間となった。おかずは唐揚げやスモークサーモンで、ご飯と味噌汁はおかわり自由という充実の内容に笑みがこぼれる。普段と異なる環境で味わったせいか、一層おいしく思えた。

立山室堂山荘の夕食。思っていたよりも豪華だった

 ご来光を逃さないため、山荘を午前1時半に出発することを決めた。ワクワクする気持ちを抑えながら準備を進める。なるべく身軽な装備で登りたいと思う一方、「本当にこれ持って行かなくても良いかな」と心配にもなる。結局、用意して来た大半の装備と共に山頂に挑むことにした。

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