世界最初の万博は1851年にロンドンで開かれた。蒸気機関車や天体望遠鏡などの「最新技術」を詰め込んだプロダクト10万点が国境を超えて集まった。出品者の半数は海外参加者。誰の目にも大成功だったのだろう。その後、1870年までの20年間に世界各地で50回も開催された。ちょっとやり過ぎではないか。当時の熱気と関心を来年の大阪万博にも分けてあげたい。

熱量を全く感じない現代と異なり、万博がなぜ関心を集めたか。インターネットが存在せず、メディアが未成熟な時代において、万博は世界そのものだった。異国の文化に触れる数少ない機会だった。
エミール・ガレが、日用品としての位置づけが強かったガラスを純粋な芸術表現として確立できたのも万博があったからこそだろう。万博は世界の工芸や美意識との出会いの場だった。万博で魅了されたものの中には陶磁器や版画などの日本美術もある。ガレは表層的な意匠を借用するところから出発しながら、日本美術に通底する美意識を深く内在化させた。季節や命の移ろいに目を向け、自然そのものの姿を器にした。小さな命たちに生きる不思議や孤独、儚さを託した。
ガレといえば濁りのある色ガラスを幾重にも重ねる手法と、厚みのある彫刻的な装飾だろう。ガレ作品の立体感と陰影の深みは、美しさという一言では片付けられない複雑さと奥行きを表現する。
白血病を患い、最晩年に制作した本作も、そんならしさが凝縮している。白濁した大理石のような冷たい空を、トンボが羽ばたくというよりも、下降していく。羽は空に溶け合うかのよう。命の羽ばたきというより、此岸と彼岸の境界を突き抜けて沈んでいるようにも見える。
トンボはガレが最も愛したモチーフの一つだった。どうしてもガレ自身の姿を重ねてしまう。今回の企画展はこの作品から始まる。(田尻秀幸)
没後120年 エミール・ガレ:憧憬のパリ
会 場:富山市ガラス美術館2・3階 展示室1-3
会 期:開催中〜2025年1月26日(日)
開館時間:午前9時30分〜午後6時
(金・土曜日は午後8時まで。入場は閉館の30分前まで)
閉場日:第1・3水曜日、年末年始(12月29日〜1月1日)、1月8日
観覧料:一般1,200円、大学生1,000円、 高校生以下は無料
問い合わせ:電話:076-461-3100