YOASOBI、ヨルシカ、ずっと真夜中でいいのに。「夜」を名前に組み込んだミュージシャンがヒットチャートに躍り出て以来、愛され続けている。分かる。夜はかっこいい。なんかロマンチックだ。彼らのリスナーをまとめて「夜好性」と表現するらしい。

 これが「朝」だったらどうか。朝遊び、アサシカ、ずっと早朝でいいのに。いやいや、いいわけない。布団から出たくないのに虫取りやラジオ体操を強制されそう。夜を冠した音楽が同時期に受け入れられたのは、現代人の夜の孤独を肯定し、受け止めてくれるからかもしれない。

VIDEOTAPEMUSIC 「While I was asleep」 撮影:noriyuki ikeda

 夜に密接な歌というとかつては酒造り唄があった。酒造りで大切な発酵に昼夜は関係ない。真夜中も酒の世話をする。過酷な夜間の作業において酒造り唄は大きな役割を果たした。作業時間を測り、眠気を覚ました。しかし、時代の移り変わりと共にその酒造り唄は廃れてしまう。

 忘れられつつある酒造り唄をミュージシャンであり、映像ディレクターであるVIDEOTAPEMUSICが映像作品としてよみがえらせた。金沢の酒蔵・福光屋で歌われていたものを、社員が1節だけ覚えていた。それをシンガーソングライター、浮の歌唱で再現。酒蔵の周辺で撮影した真夜中の映像と溶け合わせた。

 風が吹く。葉っぱが揺れる。虫がささやき合う。信号が点滅する。時折車が走り抜ける。世界が静止しているかのように見えても実際はかすかに動いている。全く動きのない映像であっても、命の気配がある。切り替わる画面をフィールドレコーディングで録音したかすかなざわめきを伴った歌が優しくつなぐ。

 「夜好性」が愛する歌のように激しいリズムはない。真夜中の庭や台所から聞こえてくるような謎めいた音が心地良く響く。

 夜の静寂と深層を伝える映像と音は、自分がただただ命なのだと思わせてくれる。同じように目を覚ましている存在もどこかにいる。そして世界は静かに、ゆっくり変わっていくのだ。(田尻秀幸)

発酵文化芸術祭 金沢—みえないものを感じる旅へ—
会  場:【チェックイン&発酵文化展示】 金沢21世紀美術館 プロジェクト工房
             【インスタレーション展示】 大野エリア、石引エリア、野町-弥生エリア、東山-大手町エリア、白山市鶴来エリア
※本作の展示会場は石引エリアの「じょーの箱」
会  期:開催中〜12月8日(日)
開館時間:11:00〜17:00
休館日:月曜日(祝日の場合は直後の平日)
料  金:一般 2,000円/大学生1,500円/小中高生 800円(ガイドブック付き)/未就学児無料
問い合わせ:発酵ツーリズム金沢実行委員会info@hakko-department.com