織物と聞くと綿やシルクを思い浮かべますが、金属もまた織物の素材になることをご存じですか? メタリック・ワイヤー・ファブリック。布のようにドレープも生むし、ジャカード織で柄も自在に入れられます。半透明で金属特有の光沢があり、銅を使えば抗菌作用も期待できるので、インテリアやアートとして用いられています。
最近では東京・麻布台ヒルズのディオールのインテリア装飾が話題ですが、銀座ロレックスのファサード、福岡リッツ・カールトン・ホテルのアート、イギリスのTOTOショールームなど、新感覚の洗練や高級感が演出される場で見かけます。

これらを創ったのが、「デザイン橡」の豊島美喜也さんです。お話を伺うために丹後の工房に伺ってびっくり。金属の織物ばかりではなく、織機そのもの、家具、カーペットまで作っていらっしゃいます。庭には有機栽培の綿花や、草木染めに使うための植物も植えられています。工房というよりも、ラボ。いったい美喜也さんは何者?
「その時々にいちばん作りたいものを作ってきたら、こうなりました」と笑うのですが、経歴を聞くと、一見ばらばらに見える要素に一貫性が見えてきます。
美喜也さんは学生時代にアルバイトをしていた料亭で茶懐石に魅了され、料理人を志します。お茶のために陶器も作り始めます。

同時に、いつか自分の茶室を持とうと夢見て建築の道に進みます。設計をしているうちにインテリアを手がけるようになり、家具も作り始めます。
出身は大阪ですが、独立を機に丹後に移住。奥様が織物を手がけていたことに刺激を受けて織物を始め、織機まで作ってしまいます。金網会社の設計の仕事で出合った廃材の金網のきらきらした美しさを見て、金属でも西陣織ができるのではと考え、金属線を織り込んだジャカード織の織物を始めるのです。夢と生活と仕事、すべてが自然につながっているのですね。
近所の方は「大工さん」「機屋さん」「デザイナーさん」とさまざまな呼び方をしていますが、独学でなんでもできる天才という敬意をこめて「丹後のレオナルド・ダ・ヴィンチ」と呼ぶ人もいます。職人とは一芸を極める人、という固定観念から自由で、境界を超えて作りたいモノを作ることの喜びのなかに生きている人なのです。
どうしてそんなことができるのですか?と聞くと、「がんばったから」(笑)。続けて、「丹後では教えてくれる人が周りにたくさんいた」と。織物で栄えた地域の伝統の助けを借りながら、生活と仕事をシンプルに楽しむ生き方のなかからユニークな作品が生まれ、それが都市のラグジュアリー空間のアートな演出に貢献しているという面白さ。
悔しいなと思うのは、職人の名前が公表されることが少ないこと。ハイブランドは店舗を設計した高名な建築家の名は大々的に謳いますが、内部を飾る斬新なメタリック装飾については誰の作品なのか、言及していません。地場産業に携わる職人はどんなに独創的な素材を創っても「下請け」の無名職人として長らく扱われてきましたが、領域によっては、創造性に優れたクリエイターとして敬意を払い、デザイナーやディレクターと同等の光を当てていく時代にきているのではないでしょうか。