——この「ゼロニイな人」は富山になんらかの縁を持った方に登場いただいています。先月は週刊文春の編集長でした。
文春ですか。いつぞやは大変お世話になりました(笑)。

——桐朋学園大学院大学(富山市)に在籍・卒業した若い音楽家たちが結成した「QREHA Strings」と12月7日に旧東京音楽学校で共演するそうですね。皆さん、呉羽にあるキャンパスで新垣さんに学んだり、私淑したりする若い才能たちです。
自分は作曲家として常に新しい作品を世に問いたいという気持ちがあります。こういう機会を若い人たちから頂けるなんて願ってもないことなんです。
皆さん、すごく素晴らしい音楽家ですね。演奏家としての能力もさることながら、姿勢や行動力がいい。そこに自分が入ることが溶け込むことになるのか、異物になるのかは分かりません。そういった化学変化を期待していただきたい。

——富山との縁はいつからですかですか?
桐朋学園大学院大学や桐朋オーケストラ・アカデミーの初期に学生たちと一緒にアンサンブルした縁はありますね。それからしばらく期間は空いたのですが、5年前に当時の学長から富山で授業を持たないかという打診があったんですよ。
私が担当しているのは実技というより、西洋のクラシック音楽について研究するような内容の授業です。

——今回の公演のために新垣さんは「幽霊」、つまり「ゴースト」を主題にした新作を書き下ろしたそうですね。新垣さんは2014年に当時注目を集めていた作曲家のゴーストライターとして騒動の中心になった。元ゴーストライターがゴーストを主題にするというのは挑戦的にも映ります。
ああいう騒動を起こしてしまったことを今も心苦しく思っています。一方で、機会に恵まれて今もこうやって音楽活動を継続できています。あの騒動によって、私という存在が多くの人に知られた。
「新垣といえばゴーストライター」という方もいるでしょう。そこからの連想でもあるのですが、ベートーベンの室内楽に「幽霊」と呼ばれている作品があるんですよ。新曲はそのベートーベンの曲に基づいた変奏曲です。

私がゴーストライターを務めた方は「現代のベートーベン」とも称された。そうやって世間をだました。幽霊とベートーベン。自分はそこから逃げられな
い。もうすぐ10年ということで音楽を通じて改めて向き合ってみたかったというのはあります。