そのスクープは「文春砲」と称され、政界も芸能界も経済界も震撼させる。
7月から編集長として記者や編集者を率いるのが、富山市出身の竹田聖さん。
編集者人生を振り返り、意気込みを語った。
——これまでの編集者人生で印象的な仕事は?
いくつもあります。でも近年だと財務省近畿財務局の元職員・赤木俊夫さんの手記ですね。森友学園に関連した公文書書き換えを上司に強制されたことを苦に命を絶った。彼が遺した手記を、妻の雅子さんが相澤冬樹さんというジャーナリストに託したんです。その発表の場に文春を選んでくれた。
私がたまたま担当デスクになったんですが、すごいものを頂いたと震えました。書店からもコンビニからも文春が消えた。完売したんです。それでもまだ読みたいという声があってオンラインで無料公開したんです。僕らにとっては雑誌は売り物。それを無料公開するなんて前代未聞ですよ。でも、この問題は一人でも多くの方に知ってもらわないといけない。
ある意味では公共財だと判断しました。その反響もすさまじかった。手紙や電話、メールでお褒めの言葉をたくさん頂きました。

——自分の仕事が国政を左右するかもしれないという可能性をどう受け止めていますか。
怖いですよ。企業の不祥事を書けば株価にも経営にも影響します。社員や家族の生活も変わるかもしれない。
——その恐怖に耐える胆力はどこから来るんですか?
胆力なんてないです。元々、文芸志望でジャーナリズム魂みたいなものとは無縁でしたし。ただ、法務部をはじめバックアップ体制は完璧だし同僚が皆優秀で心強いので何とかなってます。

——ジャニーズ事務所の性加害問題については、BBCの報道が手柄のように言われるけど、1999年から文春は報道しています。他のメディアが黙殺する中、なぜ文春はずっとやれたんですか?
先輩たちが偉いですよね。ジャニーズとは裁判になりましたし、ずっと断絶状態。雑誌に出てくれないのはもちろん、うちの小説が原作で映画化されても、タレントの写真を貸してもらえない(笑)。逸失利益は何十億、何百億円になるんでしょうか。それでも歯を食いしばって、「俺たちはちゃんとした記事を書いてるんだ」ってやってきた先輩たちがすごいですよね。
——目先のお金も大事だけど、それよりも……。
だからこそネタが集まる。「文春リークス」というネットの窓口にも毎日数百件の情報が寄せられる。あのジャニーズ相手でも、総理相手でも一切忖度しない文春だから、ちゃんと書いてくれるという信頼感がある。今うちで活躍してる記者には、全国紙や通信社を辞めてきた20代、30代が増えつつある。彼ら彼女らは、文春の方が忖度なしに書けると正社員の座を蹴って1年契約の特派員になってくれる。昔ならうちのエースが新聞社に転職したのにね。部数は減ってますけど、ブランド価値や影響力は上がっています。

これからも世の中の人があっと驚いて、時に事件になったり、時に国会が動くような記事を作りたい。血湧き肉躍り、アドレナリンが沸騰する瞬間がこの仕事の醍醐味です。記者も読者も興奮するようなスクープを1本でも多く送り出したいです。
——取材にせよ、執筆依頼にせよ、難攻不落の相手っていますよね。どう口説くんですか?
いやいや、口説けないですよ。撃沈しまくってますよ。例えばオフレコですけど、実はね……。