富山に移住したてのころ、こんなやりとりがよくありました。

 「富山の魅力ってなんですか?」と聞くと「なーん、富山には、なーんもないちゃ」

 でも、古民家で暮らし、富山の魅力に囲まれている今なら分かります。富山に住んでいると、富山の魅力が日常になりすぎて、その良さに気付いていないのです。まさに「灯台下暗し」。なんてもったいないと思ってしまう、中谷幸葉なかやこうようです。

古民家で草刈りを手伝ってくれたえみこむさん

 中でも、冬の晴れた日に見える立山連峰は唯一無二の存在です。富山県民が愛し、全国にもファンが多い立山について、「富山旅女子えみこむ」の名前で活動するインフルエンサー、中川絵美香(以下、えみこむ)さんが教えてくれました。「立山の魅力は登山だけではなくて、その歴史となる立山信仰にあるんですよ」

地獄と極楽のテーマパーク

 えみこむさんは、立山町にある「まんだら遊苑」の大ファン。立山曼荼羅まんだらの世界を表現した立山博物館にある屋外施設です。分かりやすく言えば、地獄と極楽のテーマパーク。なぜ、まんだら遊苑を発信したいと思ったのか。それは、観光サイトではあまり紹介されていないが「自分にとって最も面白い観光スポットだから」が理由だそうです。

6年ぶりに立山町で開かれた布橋灌頂会=2023年9月(上田友香撮影)

 立山は、昔から信仰の対象にされ、江戸時代には「立山信仰」が広まりました。全国から多くの人々が訪れ、立山にある地獄や浄土(極楽)に見立てられた場所を回っていました。立山信仰をさらに広めるため、立山の地獄や極楽、伝説などを描いたのが立山曼荼羅です。

 えみこむさんは「晴れた日にきれいな立山連峰を見ると、心が洗われる感覚や悩みごとが飛んでいくような気分になります。この不思議で心地よい感覚は、今も昔も多くの人が共感できる歴史の魅力なんじゃないかな」と語ります。

インフルエンサーとして活動するえみこむさん

 一度、東京で暮らしたえみこむさんは、環境の変化などでちょっと落ち込んだ時期があったそうです。ふと富山に帰省したタイミングがUターンの決め手に。「“富山で休もう”ってフレーズにすごく癒やされたんです。富山のいいところをもっともっと発信していこうと決意した」と話します。

 独学でSNSのInstagram(インスタグラム)を研究し、県内各地に足を運んで、自分の感じた魅力を発信しています。古民家で初めて出会った時から、富山の魅力的なスポットを女性目線でたくさん教えてくれました。現在も富山の観光を盛り上げたいと意欲的に活動しています。

ハロウィンイベントが開かれたまんだら遊苑

 えみこむさんに刺さったまんだら遊苑。歴史と魅力がたくさん詰まった場所を生かして何かできないか。思い付いたのが「まんだらハロウィン」でした。1年前から、「まんだら遊苑でハロウィンイベントをやる」と周囲に公言し、準備を進めてきました。

「前例ない」実現するまで

 まんだら遊苑は富山県が所有する施設です。前例のないユニークなイベントのため、交渉は難航しました。しかし、もともと「常連」だった立山キングスとの連携や一般社団法人とやまのめのメンバーによる後夜祭運営のサポートを受け、富山の人の温かさに助けられながら企画が進みました。

仮装姿で盛り上がったイベント

 10月21日、1年間構想を練り続けた「まんだらハロウィン」が実現しました。当日は大雨、最低気温6度とびっくりするぐらい悪天候でした。それなのにメインイベントで約80人、さらに後夜祭イベントは約20人が来てくれました。初めて仮装をしたという「アダムスファミリー」や家族全員分の仮装を手作りした「ゲゲゲの鬼太郎ファミリー」など、スタッフ以上に気合いの入った仮装を見て、開催して良かったなと感じました。

 みんなで踊って撮影したダンス動画はなんと1・6万回再生。まんだら遊苑の方が設置してくれた照明も良く、怖くて楽しい動画になりました。スタッフだけではなく、参加者みんなで作り上げたイベントになりました。


 まんだらハロウィンの成功を通して、えみこむさんは「1人じゃできないことも

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