今回は、こんなお悩み相談から始まります。「規格外のミニトマト、活用方法に何か良いアイデアないですか?」。そう言って、いきなり古民家を訪れたのは、東京からUターンしてミニトマト農家を起業した角裕太さんです。

角さんは大のトマト嫌い。でも、友人ら2人とミニトマト農家を起業し、トマト嫌いでも食べられる唯一の品種を栽培しています。中でもフルーツのように甘いミニトマトを「呉羽キャンディ」と名付けて販売しています。
きっかけはトマトの有効活用法
こだわりがある角さんだからこそ、規格外として出荷できないミニトマトが発生してしまいます。ジェラートにしたり、スムージーにしたりといろいろなことを試しているのですが、「何かもっと既成概念を超えたような活用方法はないでしょうか」と困り顔です。
前置きが長くなりましたが、東京のメガバンクを辞めて富山に移住した中谷幸葉です。本日のテーマは「地球にやさしいウニ」。実はこのプロジェクトが始まったのは、先に紹介したミニトマト農家の角さんからの相談がきっかけでした。

富山に移住して間もなく直面した悩みが意外にも「遊び」でした。刺激的な東京で5年間働き、コンクリートジャングルに慣れきっていたため、富山の休日の過ごし方が分かりません。「富山って、どうやって遊ぶんだ」と、何気なくスマホをポチポチしていたところ、インスタグラムに1件のメッセージが届きました。
海の厄介物との出合い
「一緒にウニを駆除しませんか?」。誘ってくれたのは、魚突き師の笹島寿弥さんでした。初対面でしたが、SNSを見て古民家の活動に興味を持ってくれていたようです。

コミュニケーション能力が高い笹島さんに連れられて参加したのは、朝日町で開催されていたイベント、その名も「ウニ駆除大作戦」でした。「ウニを駆除?ウニが何か問題でも引き起こすの?」。当時は知らなかったのですが、ウニを駆除するのは、ウニが引き起こす「磯焼け」を防ぐためでした。磯焼けとは、海の浅瀬で海藻の群落(藻場)がひどく減ったり、なくなったりする現象のことです。
ウニは海藻を食べて成長するため、ウニが増えると海藻が減ります。海藻が減ると同じく、小さな魚のすみかがなくなり、それを狙う大きな魚もいなくなってしまいます。富山湾でも同様に藻場がなくなる磯焼けが起こっており、ウニは「厄介物」だったのです。
氷見で海を守る高校生に感銘
朝日町の泊漁協は、富山の海を守るためにウニを駆除していました。しかし、駆除したウニは身が少なく、食用には不向き。駆除はもちろん駆除後の活用も課題でした。ウニを駆除しないと富山湾の魚がいなくなってしまい、かといって採りすぎても命が無駄になってしまう。相反する難しい課題に、果敢に取り組む若者たちに出会いました。

氷見高校の海洋科学科の生徒たちです。海を守るためにウニを駆除し、さらに養殖してブランド化することに挑戦していることを新聞で知りました。記事を読み、いてもたってもいられず氷見高校に連絡しました。課題を知ってしまった以上、黙って見ているのは耐えられない性分。「何かできることはないですか?」。そう尋ねたところ、「ウニの餌で悩んでいる」と返ってきました。

氷見高校では、駆除したウニを活用し、餌によって変わるウニの味を実証実験していました。研究を続け多くのデータを取るために、一定量かつ多品種の餌の継続的な供給が不可欠でした。
ビビビと思いつきました。「角さんの所で廃棄されるミニトマトを駆除したウニに食べさせたら一石二鳥じゃないか。廃棄野菜でウニを養殖して、地球にやさしいウニをつくろう」。こうして、駆除したウニの餌に廃棄野菜を活用し、フードロスを減らす「ウニとやさいくるプロジェクト」が立ち上がりました。
大手企業が水族館へ橋渡し
プロジェクトが立ち上がり、精力的に活動していたおかげで、今度は「めぐるめくプロジェクト」が主催するプログラム「めぐるめくプロジェクト射水食卓会議」に招待してもらいました。三菱地所、ロフトワーク、シグマクシス、70seedsの4社で構成し、食を中心に地域へのフィールドツアーや交流会を通じて地域間の学び合いを生み出すプログラムです。全国各地から多領域の食農に関わるメンバーの前で、活動や思いをプレゼンしました。

ここで、まさかの出来事が起きます。活動に賛同していた三菱地所の広瀬拓哉さんが、池袋のサンシャイン水族館につないでくれ、氷見高校が育てているウニの企画展示が決まったのです。「サンシャイン水族館を、魚の展示だけでなく、学びを持ち帰ってもらえる場所にしたい。そういう場所として変わっていかなければならない」。担当者の熱い思いを聞き、取り組みは富山を飛び出して東京に広がっていきました。
高級すし店主がジャッジ
せっかくやるなら、おいしいウニを育てたい。養殖ウニのブランド化に向けて味にこだわりたいと思うものの、肝心のウニの味を監修する人がいませんでした。夢中で調べ、探し回ったところ、とあるチームを見つけます。その名も「海の未来を考えるシェフチーム」(Chefs for the Blue)です。中には、ウニを稚魚から育てた経験もある料理人がいました。メディア出演も多数経験されている、東京・四谷の高級すし店「やす秀」店主、綿貫安秀さんです。

いちるの望みをかけて東京まで足を運び、話をしたところ、なんと協力してもらえることになりました、10月上旬に綿貫さんに試食してもらう予定です。一流の舌を持つ職人から太鼓判を押してもらうことができれば、商品としての価値が高まり、ブランド化にも弾みがつくはず。いつか綿貫さんのお店で使ってもらえるウニにするのが目標です。
最強のチームが誕生
都内の一流すし職人ともタッグを組むことが決まりました。ウニの駆除から育てるまでを担当する氷見高校、廃棄するミニトマトを餌として提供する農家の角さん、味を監修する綿貫さん、そして、つなぎ・ひろげる役割の「とやまのめ」。大手有名企業もサポートする「めぐるめくプロジェクト」という最強のチームが誕生しました。

海藻を食い荒らす厄介物を駆除し、廃棄野菜で育てた地球にやさしいウニの商品化を目指す「ウニとやさいくるプロジェクト」は始まったばかり。今後はウニの商品化に挑戦し、企業や団体を巻き込みながら食育などのプロジェクトを富山から全国、世界へと拡大させていく予定です。生態系の循環を再生することを目的として、土壌や海洋生態系の回復にこれからも取り組んでいきます。
さて、次なるお悩みは、少し変わったお話です。立山曼荼羅の世界を五感で味わう「まんだら遊苑」、皆さんは行ったことありますか?
◇告知◇
めぐるめくプロジェクトのトークイベント「ウニが海を砂漠化させる? 富山から日本の海の未来を救う!」が10月13日、都内で開かれます。「とやまのめ」の角さんが参加します。詳しくはこちら(外部サイトに移動します)

中谷幸葉(なかや・こうよう)
1992年、茨城県生まれ。「とやまのめ」代表理事。現在、55人のメンバーと社会課題の解決プロジェクトを進行中。まちづくり会社TOYAMATO取締役。M&Aアドバイザリー業務も行っている。