《逆張りは注意や関心をひきつける簡単な方法になってしまった。自分の信じる良識に反する言動を見ると、ぼくたちは「許せない!」と怒ってしまう。非難が殺到して、すぐに炎上する。このように道徳感情を利用して、お金にするわけだ》

 SNSがこんなに危険なものだと、始めるときには、誰も注意してくれなかった。私たちは買ったばかりの商品の説明書を、一読もせずにゴミ箱に捨ててから、製品の苦情を言っているようなものなのである。

『「逆張り」の研究』 綿野恵太著(筑摩書房、1,980円)

 最近、私はX(旧Twitter)で、軽く炎上した。詳細は控えるが、現段階で8,000以上のリポスト、15,000以上のいいね、を叩き出している。好感を持たれたからではない。反感を買ったからである。「世間的にはこういう流れでいいよね」というところにわざわざ竿をさし、「いやそうではなくてこうなのでは」と、反論を試みてしまった。そのとき自覚はなかったが、今思えば、これは典型的な「逆張り」の例である。

 問題は、無自覚にやってしまったものではなく、この簡単な方法を知っていれば、意図的に実践することができ、それをお金にすることも出来てしまう、現在の残酷な経済のルールである。目立てばいいだけなのだとしたら、そこで文章のクオリティはあまり問われない。

 ただとにかく「逆張り」をしておけばいい。きっと一定の注目を集めることだろう。そうして知らず知らずのうちに、言いたいことも言えなくなってしまい、「敵」と認定した人を出し抜く最適な言葉を考え出す装置になる人が生み出される。私だってもしかしたらそうなのかもしれないと思うと、震えが止まらない。

 自然な感情を、どのようにして失っていくかの解説本として、本当に良く出来た研究書だと思う。これは逆張りでもなんでもない。純粋な感想を述べたつもりである。

 裏はない。すべての言葉の裏を読み始めた人々の陥った悲劇の数々を知ったあとに、この書評を書いているのだから。

あやと・ゆうき 1991年生まれ。南砺市出身。劇作家・演出家・キュイ主宰。2013年、『止まらない子供たちが轢かれてゆく』で第1回せんだい短編戯曲賞大賞を受賞。